巻頭言
「味わいタイム」と国語力?
中 山 玲 子

 平成17年4月に栄養教諭が創設され、小中学校では食に関する指導(学校食育)の全体計画を作成し、食育を推進している学校も増えてきている。学校食育は、「意図的に給食を生きた教材として活用し、給食の時間をはじめ関連教科等における食育を体系付け、学校教育活動全体を通じて総合的に推進すること」である。

 関連の深い教科としては、生活科、社会科、理科、体育(保健)、家庭科、総合的な学習の時間、道徳、特別活動等があげられるが、国語と関連付けた研究授業もしばしば見られる。1年「おおきなかぶ」、「なぞなぞあそび」、2年「かんさつ名人になろう」、3年「すがたをかえる大豆」、「食べ物はかせになろう」、4年「かむことの力」等、栽培活動と関連付けたり、給食に出てくる食品と結び付けたりして、国語、食育の双方に良い効果を与えていると感じる。

 私は京都女子大学附属小学校や京都市立小学校の文部科学省「栄養教諭を中核とした食育推進事業」研究指定校の食育に関わってきた。

 児童の食卓体験の貧困化(孤食、家庭での料理の偏り、偏食)などにより、塩味や甘味などの味覚が鈍くなっている児童や、ピリ辛、渋味、えぐ味などを「からい」と表現する児童が多くなっている。早食い等の食行動もあり、よく噛んでいない児童も見受けられる。和食継承の観点からもだしの旨味や食材の味を、味わって食べてほしいとの思いから、10年ほど前から五感を使って給食を味わい、おいしさを表現する取り組み(「味わいタイム」)を行ってきた。

 給食の後に、児童にどうおいしかったか、自分の言葉(口頭や文章)で表現してもらい、キーワードを拾って分析すると、味覚のみならず、触覚、嗅覚、視覚、聴覚、心理・経験、食卓環境等、実に多様な表現が出てきた。

 だしの旨味の感受性の高い児童は語彙が多い傾向が見られた。また「味わいタイム」の取り組みにより、よく噛んだり、味わったりする望ましい食行動の習慣がつき、語彙も増えてくることが分かった。児童は、様々な食育や食体験を通して、しっかりと味わい、だしの旨味や食材本来の味、命や作り手への感謝の気持ち、食を楽しむことなども含め、多様で感性豊かな表現ができるようになっていることが示唆された。

 「味わいタイム」は、国語力を高められる食育活動かもしれない。
(京都女子大学家政学部食物栄養学科教授)