本の魔法
弓 削 裕 之

 西日本の私立小学校が集まる研修会に参加した。学級経営部会では、森邦博先生(京都女子大学非常勤講師)を講師にお招きした。
 森先生との出会いは、私がさざなみ国語教室に入る以前に遡る。当時、公立小学校で理科専科として勤務していた私は、前任校の恩師を頼って閉館後の大津市科学館を訪れた。そこで、恩師からの紹介でご縁をいただいたのが森先生だった。「理科はダイナミックに」と、滑り台を使った流水の実験のお話をしていただいたのをよく覚えている。目から鱗の実践例ばかりで、理科を教材研究することのおもしろさを知った。さざなみで再会を果たした時、その時の自分を覚えていてくださったことに感激した。
 森先生が吉永幸司先生と共に執筆された『子どもが輝く 読書力を身につける指導術』を読めば、読書が学級づくりに大変有効だということがよく分かる。学級経営部会の講演でも、森先生は次のようにおっしゃっていた。

「教師が毎日子どもたちによい話をするのは難しい。しかし、本の読み語りはそれをかなえてくれる。本を読めば、子どもたちにとって必ずよい話になる。なぜなら、本は一冊一冊、作者が魂を込めて書いているからだ。」

 課題を抱え、なかなかこちらを向いてくれなかった男の子が、担任の先生からの読み語りのシャワーを浴びることで、弟に読み語りをしてあげるまでに変わったという。読み語り後に感想を尋ねるべきかという参会者からの質問には、「読み語りをしているうちに、読者が育つ。こちらから尋ねなくても、自然と子どもたちの方から感想を言うようになる」と返答された。読み語りはとにかく続けることが大切なのだと改めて気づかされた。
 部会に参加した同僚の先生が、読み語りをがんばっていると言う。私の方はまだまだ至らないが、司書の先生や相学級の先生のお知恵を借りながら、できるだけ読み語りの機会をつくっている。カウベルを鳴らして読み語りを始めるなど、何か合図を決めておくとよいと森先生に教えていただき、さっそく手拍子を鳴らしてみた。パンパンパンパンと弾むように手を打つと、初めはびっくりしていた1年生の子どもたちも、一緒に手拍子をし始めた。

 はじまる はじまる よみがたり(はじまる はじまる よみがたり)
 どんな えほんに であうかな(どんな えほんに であうかな)

 手拍子のリズムに合わせて口ずさむ。子どもたちも自然とそれに続く。まるでずっとこのやり方を続けてきたかのような雰囲気に驚いた。学級がひとつになる。絵本の表紙を見せ、ゆっくりと開く。しいんと静まり返る教室。本の魔法にかかる瞬間だ。
(京都女子大附属小)