共通体験と共感
海 東 貴 利

 滋賀県が誇る県の一大事業に昭和58年から続く「びわ湖フローティングスクール」がある。学習船「うみのこ」に複数校の小学5年生が乗船し、1泊2日船の中で寝食を共にしながら、琵琶湖に関わる環境学習や交流活動を行う。先日、この初代「うみのこ」が35年間の就航を終えることになり、引退セレモニーが盛大に行われた。

 式典では、乗船の経験がある小学生、高校生、社会人の3名の方が「うみのこ」の思い出を語った。その小学生は、母親も乗船した経験があるということからフローティングスクールのことを聞き、楽しみにして当日を迎えたことや母から大人になっても「うみのこ」に乗った思い出が滋賀県出身者同士で話題になることなどを語り、「うみのこ」への感謝の気持ちを述べた。高校生は、自身が経験した水質調査やプランクトンの観察などフローティングスクールならではの様々な活動を振り返った。また、当時一緒に乗船した学校の友達と高校でも再開したことや父親も小学生当時乗船していたことなど「うみのこ」が作った縁に対する感謝の気持ちを語った。

 県外からこの日のために駆けつけた社会人の方は、30年ほど前の当時を振り返り、大きい船に乗って1泊することを担任の先生から聞いたときの不安と興奮を語った。そして、たくさんの思い出を残してくれた「うみのこ」への感謝の思いを述べた。会場の舞台袖にいた私を含め、セレモニーの会場にいた人たちは、3人が語っている間、きっと「そうそう、私もそうだった」と共感しながら聞いていたのではないかと思う。頷きながら聞く人、近くの人と顔を見合わせて納得するような表情の人、会場は不思議な一体感が生まれていた。

 学習指導要領が改訂されるにあたり、現在のフローティングスクールでも主体的・対話的で深い学びの実現を目指している。例えば、船内で行う環境学習(びわ湖学習)では、自らの学習をまとめたり振り返ったりして、航海後の学校での学習につなげている。また、個人で考えたことをもとに意見交換したり、議論したりする班交流も大切な学習の時間にしている。それは、新たな考え方に気付き、自分の考えをさらに広げ深めるための学習活動になっている。班交流は航海2日目の後半。子ども同士の不安や緊張がほぐれ、活発な話し合いができるようになる。船内での共通した体験活動や学習がこうしたアクティブな学び合いの姿を作り出しているのかもしれない。しかし、質の高い、深い学びの実現のためには、まだまだ指導方法に工夫が必要であると考える。

 新船就航を機に、学びに必要な指導の在り方を追究し、必要な学習環境を積極的に設定していくことが求められる。2代目「うみのこ」も長く愛され、感謝される学習船となるよう、「うみのこ」ならではの感動体験と学習活動を展開していきたい。
(びわ湖フローティングスクール)