巻頭言
母 と 読 書
杉 田 和 代

 私の母は、昭和7年生まれの85歳です。国民学校を卒業してすぐに繊維工場で働き、結婚し、子どもができてからは専業主婦となって内職をしながらつつましく暮らし、大工さんの父を支えるとともに、私と兄を大事に育ててくれました。6年前に父が亡くなってからは一人暮らしです。子どもは、大阪、兵庫とそれぞれの地で働いています。父は、「子どもには子どもの人生がある。」と言っていたそうです。父が亡くなってから母から聞きました。

 母の目下の楽しみは、おいしいものを食べることやお風呂に入ること、そして図書館で借りてきた本を読むことです。小さい字は読みにくいので、大人用の本の中でも大活字本や子ども用の本を借ります。母の好きなジャンルは、むかし話や勇ましい三国志や西遊記、鬼平犯科帳など、読んでいて勇気が出たり楽しくなったりする本です。しめっぽい話は嫌いです。一方、瀬戸内寂聴さんの本も好きです。私の薦めであまんきみこさんや新見南吉さんの本もほとんど読みました。国語の教科書関係の作者の本はほとんど読んでいます。図書館では、1週間に10冊を借りることができるので、これまでに1000冊以上は軽く読んでいます。

 母が、これほどまでに本を好むには、理由があります。まず、母は子どもの頃から本を読むことは大好きでした。しかし、貧しかったので本は買ってもらえなかったそうです。だからいつも仲良しの友達が本好きの母に貸してくれていたそうです。買ってほしくても買ってもらえなかったので、「自分に子どもができたらたくさん本を買ってやろう」と思っていたそうです。おかげで私はたくさんの本を読んで大きくなりました。

 本が好きな二つ目の理由は、「本を読むと話の中に吸い込まれていくのが楽しい」からです。時間が経つのを忘れてしまうと言います。そして、勇ましい話を読むと勇気が出て、悲しい話を読むと悲しくなると言います。だから、今は楽しかったり、勇気が出たりする本が好きです。

 母は、家の中ではなんとか手すりを持ちながら歩くことはできますが、家の外には一人で出かけられません。テレビ番組も高齢の母が好むものは少ないです。だから、本を読むことが楽しみの大事な一つです。母がなんとか毎日を過ごせるのは、本のおかげです。母が本好きでよかったと思います。

 「本は心のビタミンC」と絵本作家さんが言われたことを思い出しました。今も昔も読書は人の心を潤してくれます。これからも母が元気で、本を楽しく読みながら、長生きしてくれることを願っています。
(明石市立朝霧小学校校長)