「やまなし」 〜初発の感想から〜
岡 嶋 大 輔

 宮沢賢治作「やまなし」(光村図書6年)の初発の感想を書いた。何度も読み込んでから書く感想もよいのだが、初々しい感覚で読み、じっくり書く子どもの感想は、いつも貴重だと思う。その感覚や感想は、分析的な読みよりも、作者が作品に込めた思いや願いに近いのだろうとよく思う。
 以下は、初発の感想から抜粋した幾つかである。

○かにの子どもがカワセミを怖がっていたのが、戦争や犯罪者を怖がっているぼくたちのようだと思いました。
○怖がっているかにの子どもを安心させる父は、人間の親子と一緒だなと思いました。
○人間と同じように危険があったり、楽しみがあったりという毎日の生活があるんだなと思いました。
 ―ー蟹の親子と自分やその家族と重ねて読んでいる感想。

○「その海の天井は」の、波が青い火を燃やすというところ、日光が波に当たっている。表現の仕方がすごいなと思いました。
○最後に上からやまなしが落ちてくる。だれも想像できない終わり方をするなんてすごいなと思いました。
○自分で言葉を作った理由は、読む人にいろんなもの、場所を想像してもらえるようにするためだと思います。
○「私の幻灯は、これでおしまいであります。」とあるので、宮沢さんの想像していることを書いたのだと思います。
○いろいろと新しい言葉を生み出していて、深く考えて読んだら負けだと思いました。
 ―ー優れた叙述に着目して読んでいる感想。

○注文の多い料理店も読みましたが、いろいろな表現や、最後の終わり方がおもしろいので、他の本も読んでみたいです。
○どのようにしてこのお話を作ったのかを知りたいなと思いました。
 ―ー作者やその作品について思いを馳せている感想。

 感想をみると、一人ひとりがその子らしいいい読みをしている。それらは、「自分との共通点」「優れた叙述」「作者の意図やメッセージ」「場面の対比」「登場人物の変容」「象徴」「同作者他作品との比較」といった、指導者が押さえたい読む際の視点に、バラバラとはいえ触れている。それぞれが気になる読みを追究していくとともに、交流を通して「そんな読み方があるのか。」「そんな感じ方があるのか。」と、自分の読みの可能性を広げていくことのできる授業が展開できればと考えている。
 そして、賢治の世界の魅力を感じ、その子の読書生活が少しでも豊かになればと願っている。
(野洲市立野洲小)