巻頭言
私の授業観を変えた複式学級の授業
川 口 知 佐 子
「複式学級は教育の原点である」と言われるが、複式学級の担任をして、私の考える「良い授業」の概念が変わった。

 私が複式学級を知ったのは教員になって5年目に広島大学附属東雲小学校に赴任したときである。担任することはないと思っていたが、複式学級を担任する機会に恵まれた。

 複式学級とは異学年の子どもたちで構成される学級形態である。教科によっては、学習内容が異なっているため、教師は2つの学年を同時に指導しなければならない。必然的に教師が直接指導できない時間が生まれるのである。

 子どもと共に1時間やりとりをしながら深めていく授業は成立しない。だから、最初は子どもが授業を進めることに抵抗すら感じ、思い通りにいかない授業に苛立ったことさえある。

 複式学級の授業は、ガイド(授業を進める手だてとして教師が用意したもの)を参考に子どもたちが授業を進める。めあても子どもたちが考える。そのような授業をしているうちに私の授業観は変わった。「子どもを引きつけるテクニックや教材は必要ない。」そう思うようなった。もちろん魅力的な教材は大切である。しかし、複式学級の子どもたちは、特別な教具や教師の言葉がなくても、問題を見て、内容自体を楽しんでいる。教師が必要なのは事前の教材研究と授業準備、授業の進め方の指導である。

 また、何より、複式学級での授業の一番の醍醐味は子どもに越えられる瞬間が多々あることである。複式学級では、子どもたちが授業の大半を進めていくので、教師の考えている方向に進まないことが多々ある。もちろん大きくずれているときには言葉がけをし、軌道修正をする。一方で、時に私の想像を遙かに超える授業を子どもたちが繰り広げることがある。その瞬間がたまらなくうれしいのである。子どもたちの成長を感じられる。

 私は現在、公立の小学校で複式学級を担任している。全校生徒十人という小規模の学校であるが、子どもたちが育つ授業を目指して試行錯誤している。教師の創る授業ではなく、子どもたちが学習を創り楽しむ授業を目指していきたい。授業は自分たちのものである、そう考えることができる子どもが育つのが複式学級である。
(広島市立湯来西小学校)