巻頭言
「感性のことば」オノマトペ
岡 林 典 子
 今年二十歳になる娘が一歳の時だった。隣りの犬の鳴き声を共に聞きながら、「『ワンワン』って鳴いてるねぇ」と言葉をかけると、娘は「ゥワン、ワォ〜」と発話した。それは、私の言葉を模倣した「ワンワン」ではなく、聞こえた犬の鳴き声そのものを声で表していた。そして、大人が動物の鳴き声を表す時に用いる「ワンワン」や「ニャーニャー」などの画一的、類型的なオノマトペではない、リアルな一歳児の表現だったことを印象深く覚えている。

 一歳二か月のM君は「ジャー」というオノマトペを獲得し、保育士と「ジャー」「ジョー」と言い合いながら、ビニールプールで水かけ遊びをしている。目をつぶって耳を傾けると、そこには声と動作のやりとりによって生まれる音の世界が広がっていた。

 物の音の響きや動物の鳴き声を表す擬音語は、聴覚を通して外界を捉えた言葉であるといえる。また擬態語は、視覚や触覚を通して事物のありさまや現象、動きや状態を描写的に表した言葉であるといえる。このように、オノマトペ(擬音語・擬態語)は感覚を通して感性に訴える「感性のことば」として捉えられるユニークな存在であり、日本語には多様なオノマトペがあると言われている。(苧阪直行『感性のことばを研究する』)

 音楽教育を専門とする立場から、ここ数年は幼稚園と附属小学校の先生方の協力を得て、子どもの創造性を育む音楽活動について実践的研究を試みている。先日、「色・形から音へ」というテーマで、絵本の絵から感じ取った音のイメージを、思い思いに九種類の民族楽器を用いて音にするという音楽活動を行った。その過程で、小学校一年生には楽器の音から感じるオノマトペを表記してもらった。

 例えば、レインスティック(乾燥したサボテンの内部に針を打ちこみ、中に豆粒や小石を入れた雨音のような音色のペルーの楽器)からは、「サアサア」「サラサラ」「シャーシャー」「シャリシャリ」「ジャージャー」「ジャラジャラ」など、多様なオノマトペが表記された。同じ音を聞いても、それぞれの子どもの感性によって聞こえる音や表される音は一様ではない。

 学習が進むにつれて、子どもたちはものごとを言葉という概念で捉えてしまいがちであるが、学年が上がっても日本語の豊かな表現の世界を感覚的に捉えられる感受性を育みたいと思う。
(京都女子大学発達教育学部教員)