朝 顔 の つ る
弓 削 裕 之
「先生、あさがおのつるがのびてきました!」 来週の音読課題はどうしようか…と、考えながら窓の外を眺めていると、登校してきた女の子がうれしい報告をしに来てくれた。 附属小学校では、毎週音読の課題を出している。毎週月曜日に行われる音読集会で発表をするためである。しかし、1年生は音読集会とは別に、土曜日に行われる入試説明会でも音読発表をすることになっていた。それに向けて、新井竹子さんの「あいうえお」と、清少納言の「枕草子」をすでに練習していたのである。暗唱をする詩がさらに増えるのは大変なことだったが、女の子の気づきを知り、今しかないと、金子みすゞさんの「朝顔の蔓」を音読課題に選んだ。 垣がひくうて朝顔は、どこへすがろとさがしてる。 西もひがしもみんなみて、さがしあぐねてかんがえる。 それでもお日さまこいしゅうて、きょうも一寸またのびる。 のびろ、朝顔、まっすぐに、納屋のひさしがもう近い。 今、まさに育てているあさがおの詩ということで、子どもたちもやる気を見せた。あさがおは教室の窓のすぐ横で栽培していたので、「あさがおさんに聞こえるように読みましょう」「あさがおさんに声が届くように」と指導をした。すると、「のびろ、朝顔」のところから、子どもたちが自主的に声を大きくし始めた。「大きな声で」などの指示よりも、子どもたちに響く言葉があるのだなと感じた。 ある日、あさがおのつるがのびてきたことを報告してくれた女の子が、また私のところへやって来てこう言った。 「先生、あさがおのつるがのびすぎて、たおれてきました。」 「そうですか、困りましたね。どうしましょう。」 そろそろだなと、私は支柱を立てるまでの授業計画をし、その日を待った。 すると、数日後、その子が真剣な表情をして私のところへやって来た。 「先生、宿題で音読をしていたら、あさがおさんの気持ちがわかったんです。かわいそうです。はやく、ぼうを立ててあげたいです。」 私は、その言葉にはっとした。そして、予定していた日を待たず、すぐに子どもたちと一緒に支柱を立てた。女の子のうれしそうな笑顔が印象的だった。 月曜日の音読集会。1年生の「朝顔の蔓」の音読は、体育館から教室横のあさがおまで届きそうなくらい、のびやかで大きな声だった。 (京都女子大附属小)
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