巻頭言
人との出会い
浅 原 孝 子

 取材して原稿を書くというライターの仕事は、原稿をまとめるというたいへんな仕事に違いないが、それにもまして大きな魅力がある。それは、取材時に出会う方たちだ。一般の人から、教育関係者、著名人など様々な人物に出会うのはとても刺激的だ。なかでも、時の人に会うのは、緊張感とともに、わくわく感がある。昨年の最大のトピックは、青色発光ダイオードの発明でノーベル物理学賞を受賞した天野浩教授である。そのときの話を少し紹介したい。

 取材場所は、天野教授が所属する名古屋大学。東京から新幹線で移動し、大学へ到着したときは、約束時間よりかなり前だった。天野教授が文化勲章の受章者に選ばれた日で、その記者会見にも運よく参加できた。

 記者会見後、ついに単独インタビューだ。天野教授は温和で、こちらの質問に対しとても真摯に答えてくれた。一番、印象的だった話は、学校の教師の影響を大きく受けたことだ。

 最初に影響を受けたのは小学6年生の時。ある朝の会で「周りの人や先生方が一所懸命に準備をしているから、あなたたちはそのなかでサッカーを自由にできるんだよ」という担任の話があり、この言葉がずっと残っていたとのこと。小学生のとき、サッカーのキーパーだった天野少年は、有頂天で、勝手気ままな気分になっていたときに先生が言った。人に対する礼を覚えたとのことだ。

 高校では、担任の数学の先生にあこがれた。数学でわからないところがあると、すらすらと説明する姿がかっこよく、どんどん数学が好きになったそうだ。数学の授業は、論理的でわかりやすかった。論理的に順を追えば、どんな問題でも解決できるというのが身に付いた。考えを論理的に組み立てる訓練はこのときにできた。

 そして、大学時代。工学の概論の授業で、工学の「工」は、一(ひと=人)と一(ひと=人)をつなぐ意味があり、その学問が工学であるという話が印象に残った。「学問は人のために尽くすものである」とひらめき、それが勉強に対する態度が変わった瞬間だった。もっと一所懸命勉強にのめり込んだ。

 教師の力は大きい。人の人生を左右すると言っても過言ではない。このような貴重な話が聞けるのも、ライターという仕事だからこそ。これからも様々な人との出会いを大切にしていきたい。