丁寧のものさし
吉 永 幸 司

 言語力育成とか思考力・判断力・表現力の育成等、勢いのよい文言が。これらは、子どもの言葉の生活を注意深く見守ることが大事であるという意味でとらえています。私の場合は、日常の中で言葉に興味を持つことと心得ています。メモノートから見つけたいくつかのことです。

【その1】丁寧のものさし
 名前を呼ばれた時や指示を受けた時、「はい」という返事をします。返事には、理解ができたことや、肯定する意味が入っていますから、受ける側には、気持ちがいいのです。しかし、その理解の仕方が相手の気持ちに応えているかどうかはわかりません。
 それほど、深く考えることでもないのですが、段階を考えました。5段階で「はい」は3です。では、1とか2は何かです。
 「はい」という気持ちを持っているのに、反応がないことがあります。「分かっていますか」「わかってるに決まっているでしょう」という意味の言葉のやりとりがあります。その言い方が過ぎると喧嘩になります。家庭でのやりとりは結構、この類いがあります。いまさら言わなくてもいいのにという関係ですから。しかし、誤解を招いたり、喧嘩になるということを考えると1です。
 次に、うなずく、相づちをうつなど、「はい」の代わりに、頷く、笑顔で返すという場合です。相手が、顔を見ていないと分からないので2です。
 「はい」を3にしたら、4は、「はい」プラス一言です。「はい。わかりました」「はい。すぐします」「はい。できました」などです。この一言が、人間関係を豊かにすることは日常生活で経験していることです。「はい。任せて下さい」と、言われると頼もしくなります。この言葉に慣れてくると、「承りました」「任せて下さい」という言葉が生まれるきっかけになります。
 5は、「はい。分かりました」等に続く言葉が言えることです。「はい」プラス二文以上という基準です。「はい。わかりました。すぐに行きます」「はい。わかりました。これからは気をつけます」等です。更に、「はい。すぐに行きます。しばらく待っていて下さい」と相手を気遣う言葉も生まれてきます。
 言葉が増えることは相手への思いやりでしょう。さらに、言葉への気遣いは、自分の心を豊かにする魔法と思っています。気持ちがいい言葉のやりとりは、相手を思いやるということだけでなく、何よりも自分の生活が豊かになります。
 このことに気をつけて子どもの言葉を聞いていると「おはよう」「おはよう。一緒にあそぼうね。待っててね」というように、「はい」が「おはよう」や「さようなら」に変わっても活用できる「はい」を基準した丁寧な言葉のものさしになりそうです。

【その2】誇りと埃
 新学期早々のことです。通学のバスの中で行儀のよくない子がいました。休み中に約束を忘れたようです。
 自分の行為の重さを指導するために制服を話題にしました。
 制服は学校の誇りであること。制服をみて「あの学校の子は」と評価をされること等を細々と話をしました。要点は、制服に誇り持ち、責任を持って行動することを指導しました。その時、その雰囲気、表情からは、しっかり理解をしたように見えたので安心していました。
 後日、その子のお母さんから、
「ずみません。気をつけます。」
というお詫びの言葉がありました。しかし、言葉の端々に、納得されていないようなものがあり違和感を持ったのです。気になったのは、「制服は、整えて登校させたのに、ど うして、注意を受けるのかな」という気持ちが伝わってきたからです。詳しく話っているうちに分かったのは、「制服に埃がついているので、洗濯をしてもらいなさい」というように言ったようでした。もちろんバスの中の話はしっかり省いているので理解できないのは当然です。「誇り」を「埃」と理解しての言葉でした。正しく伝えることは難しいのです。状況がわからないと言葉は時々、混乱をまねくことを指導するよい機会でした。

【その3】的確な助言
 自分にとって都合が悪いでき事があり、ふくれ面をして帰った子がいました。
「自分は何もしていないのに、意地悪をされた。」
と言うのです。心配をしたお母さんは、色々話を聞き出すのですが要領を得ません。お父さんの帰りを待ってどうしようかと相談しました。お母さんとしては、担任から詳しく聞きたいという気持ちが強かったのです。
 しかし、お父さんの話は違いました。お母さんの話を受けとめ、
「担任の先生に聞くのは後でいい。」
「上手に話ができなかったので、どうしようかって先生に相談させるのが大事だろ。」
「学校のことは先生が一番ご存じだから、先生に任そう。」
と助言されたそうです。
翌日、担任から、
「そのお話では、おうちの方はわからないですよ。わかってもらえるようにお話の仕方を勉強しましょう。」
と、具体的に話し方を教え、その通りに話すように指示をしました。結果は良好。その後、その子は担任の先生の信頼が強くなりました。お父さんの知恵から生まれた絆です。