環境学習における ことばの力 〜外来魚は悪者か〜
蜂 屋 正 雄

 今回は、外来魚に関する基本的な情報と陥りがちな結論を紹介する。そして、そうならないために、情報をまとめる際に有効なことばの力についての事例を紹介したい。

 外来魚について調べはじめると、以下のような情報が入手できる。
・食用として外国から持ち込まれたブラックバスとブルーギルが琵琶湖で増えている。
・近江舞子で地引網をすると8割はこれらの外来魚である。
・外来魚は昔から琵琶湖にいた在来魚の卵や稚魚をよく食べている。
・滋賀県では、生態系のバランスを保つために外来魚駆除の事業をしている。
・その効果か、外来魚は一時期の半数程度まで減り、在来魚も回復の兆しがみられる。

 さて、ここまでの学習を進めた子どもたちは(大人も)どのようなイメージを持つだろうか。おそ らく、
●外来魚は固有種を食べてしまう悪いやつで、琵琶湖にいてほしくない。
●駆除されるくらいだから、殺してしまっても良いのだ。
●固有種がたくさんいる琵琶湖になってほしい。
というようなものだろう。実際、そういう感想を述べる子どもがたくさんいた。ここで終わってしま うと、悪いのは外来魚となり、自分には関わりのないことになってしまう。

 ここから、少し進んで、
○外来魚はどうやって琵琶湖に来たのだろうか。
○固有種の減少の原因は他にはないのか。
といったことを調べていくと、
・ブルーギルは、「タイやヒラメにも負けない食味」ということで水産試験をしていた。
・淡水真珠の養殖に必要な生き物としても注目されていた。
・ブラックバスは、最終的には、ルアー釣りを目的に全国各地に放流された。
・ブラックバスが入るとほかの魚を食べ尽くしてしまうので、ブルーギルと一緒に放流することが推奨されていた。
ということがわかり、人の都合で連れてこられたことがわかる。

 また、在来種の減少の原因は、
・護岸工事によるヨシ原・砂浜・岩場の減少による産卵・稚魚の成育場所の減少
・梅雨時の洪水防止を目的とした琵琶湖の水位の低下措置による卵の乾燥
・水質の悪化による、生息環境の悪化
・外来魚による捕食、並びに漁業による漁労
ということもわかってくる。ここまでわかってくると、子どもたちの意識も、
○人の都合で連れてこられた外来魚だけど、生き物のバランスを保つためには死んでもらわなければならないのがかなしい。
○人間が起こしたことだから、わたしたちで何とかしなくてはならない。
といったものに変わってくる。

 社会人研修では、外来魚の解剖とともに、以上のような内容を講義し、感想を書いてもらった。半 分のグループには「外来魚は悪者か」という文を入れてもらうようにお願いした。その結果、何も指 定しなかったグループの感想は解剖体験に関する感想が80%程度であったのに対し、指定したグルー プは、こちらの感じ取ってほしかった内容についての記述が60%程度見られた。
 学習の終わり方として、この違いは大変大きいものである。実際の授業もそうであるが、その時間 の学習課題に沿ったまとめをするかどうか(今回は「外来魚は悪者か」というキーワードを入れるこ と)で、その学習の感想やイメージはずいぶん変わる。指導者が伝えたいことを明確に持ち、その一 点は必ずまとめの活動に入れるだけで、学習成果はずいぶん違うと思う。
(滋賀県立琵琶湖博物館)