巻頭言
びわ湖と近江の子ども
廣 瀬 久 忠

 カミングアウトバラエティ!! ひみつのケンミンショー(日本テレビ系列)がレギュラー化された時、最初に紹介された滋賀県民のひみつは「滋賀には子どもがびわ湖で宿泊する船がある」。平成19年秋だった。
 その船「うみのこ」が就航30周年をこの8月4日に迎えた。
 大津港で記念式典と記念航海が行われた。
 これまでに乗船した5年生児童は47万7千人を超える。30年かけて滋賀の3分の1の県民が宿泊乗船している。
 うみのこ世代のはじめはは現在41歳。さざなみ同人も全員乗船指導の経験を持つ。

 滋賀県どこに住んでいても、学校が違っていても初対面の人が集う場で「うみのこ」は話に花が咲く。びわ湖は広かったね。思っていたよりびわ湖はきれいだったね。長浜の町をウォークラリーしたね。カツカレーがおいしかったね。まくら投げしたね。と盛り上がる。
 これは、高校生でも大学生でも大人でもわき上がってくる記憶。

 残念なことに滋賀の教師が知恵を絞って計画した1泊2日の宿泊体験学習のなかでも「びわ湖環境学習」と呼ぶ、知的な理解の思い出なかなかあがらない。
 それは初めて出会った他校の5年生と仲良くできるかどうかが最大の関心事の中で寝食を共にしてうち解けていく強烈な体験が心の奥に残っているのだろうと思う。
 よく子どもの頃に国語の授業の思い出を語る人がいる。幸せだなと思う。そんな授業をしたいと願っている。子どもの頃の思い出として蘇らせるには余程の強い心を揺さぶるような感動がないといけないのだろう。

 滋賀の教師が積み上げてきた教育文化財「児童学習航海」の学習活動を「記憶に残る体験」として刷新する時期にきている。
 キーワードは「ことば」である。初めて出会った5年生との出会い方の学習を自分の特性を知る機会にすること。タウンウォークラリーのグループ学習でのさまざまな情報を集め、分析し、処理する力を確かにつける学習にすること。地図も読まず、さまざまな標識や表示も見つけぬままただグループに追従している現実がある。
 夕べの集い。学校紹介もいいが、綱引きやシッティグバレーもいいが、びわ湖について語らせるシンポジュームやディベートや全員参加型の言語活動を鮮烈な印象で体験させてやりたい。
 船の中で「びわ湖の自然について語ったね」「滋賀の未来について白熱した議論をしたね」と思い起こす滋賀県民を作るのは滋賀の教師の使命である。
(湖南市立菩提寺小学校教頭)