巻頭言
贈られた本から
俣 野 哲 夫

 私のお正月の楽しみに年賀状があります。
 中でも、これまでの教え子からのものを手にすると、ついついじっくり眺めてしまいます。「子どもが、先生に受け持っていただいた年と同じになりました。」とか、「今年はこんな夢を抱いています。」と、簡潔な文から幸せが読み取れます。立派な社会人として成長している姿に、私もその一部分を担っていたのだと、勝手な自己満足をしています。
 文字から人柄を思い起こせます。私は、宛名や「おめでとう」の挨拶文を、小さい頃は鉛筆で、そして筆へと、下手ながら何とか手書きを続けました。その後は、忙しくなるやら、ワープロやパソコンの登場で、今では器械にたよっている始末です。温もりを持たすため、一言だけ書き添え、気持ちを伝えています。

 その年賀状ですが、小学校二年生時代からの恩師には、必ず出しています。お年を召された方々がほとんどですが、みな様ご存命で、返ってくる年賀状に、昔のお顔が浮かび、懐かしく思っています。
 恩師の一人である宮本正章先生には、高校時代に古典を教えていただきました。しかし、読んで、訳して、早く覚えるという私流のわがままなイメージで、失礼ながらあまり興味がわかなかった記憶があります。当時の私に、言葉の奥深い意味や情景を想像したり、古人の思いや感性に触れたりする時間と余裕が、もう少しあったらと悔やみます。しかし、校外学習で奈良へ行ったときには、歩きながらていねいに解説されたことがあり、さすがだなあと感心した思い出を持っています。

 宮本先生からは、時折、本が届けられます。最近では、「石上露子(いそのかみ つゆこ)百歌」を出版されました。明星派の歌人のようですが、私にとって初めて聞く名前で無知を恥じました。
 「どうぞご笑納ください」と手紙が添えられてあり、忙しくばかりしていないで、これを読んでしっかり教養を身につけなさいという、先生のお心が伝わりました。
 この前、久しぶりに同窓会があり、先生とお会いしました。その時、世界鬼学会なるものの会長をされていたとお聞きし、改めてユニークな面も知りました。四十年ほど前の出会いとその教えが、今私自身に、やっとしみ込み始めているようです。教育とは時間のかかるものですよと・・・。
(大阪府茨木市立水尾小学校長)