「一」の意味 〜「世界一美しいぼくの村」と「一つの花」〜
川 那 部 隆 徳

 物語や説明文を問わず、同一作者や同ジャンル、異ジャンルなど複数の作品を重ねて読み、作品の主題や作者の主張、表現の特徴などについて考える学習を、各学期に一回程度行っている。
 「世界一美しいぼくの村」(東書四年)「一つの花」(光村四年)は、ともに、戦争を題材にした物語(以下、戦争物語)である。両作品とも登場人物の言動や場面描写に家族に対する愛情が表現されている。それに加え、前者からは郷土に対する愛着、後者には、人物の成長等を読み取ることができる。これらが、両方の題名中の「一」に込められているわけである。
そこで、両作品を比較し、似ているところや異なるところなどについて話し合う視点の一つとして、「一」に注目し、「一」の意味を考えることを通して、作品の主題をつかむことをねらった。

T 二つの作品を読み比べる視点にした題名について考えてみよう。(二つの題名を並べて板書する。)
C あ。両方に「一」がある。
T 「世界一美しいぼくの村」にも「一つの花」にも、「一」が題名の中に入っているね。いったい、「一」には、どんな意味があるのかな。
C 「世界一」の「一」は、バグマンの村が世界一美しいという意味で、「一つの花」の「一」は、お父さんがゆみ子にあげた一輪のコスモスのことだと思う。
C 「世界一」というのは、本当に世界中で一番美しいというのではなくて、ヤモがパグマンの村は世界一美しいと思っているということだと思う。
C ヤモが自分の村が大好きだということ。
T ヤモにとって「世界一」だということだね。じゃ「一つの花」の「一」というのは、誰にとっての「一」なんだろう。
C ゆみ子にとっての「一」で、お父さんからもらった、たった一つの花だという意味だと思う。
C お父さんにとっても「一」の意味があると思う。一つだけわたしたから、その一つに意味があって、お父さんの願いがこもっていると思う。
C たくさんわたすよりも、一つのほうがお父さんの思いが強い。
C なんか深いなあ。
T どんなところが深いのかな。
C たくさんよりも一つの方が強いってすごいなあ。
C だから、作者は、題に「一」入れたのかな。 (後略)

このように、「一」の追究を通して、登場人物の思い、願い、さらに題名に込められた作者の意図へと読みが深まっていった。  複数の教材を重ねて読むにあたって、読みの視点を重視している。
(滋賀大学教育学部附属小)