文庫本を片手に、シリーズを重ねて読もう
川 那 部 隆 徳

 「白いぼうし」が収められている『車のいろは空のいろ』(ポプラポケット文庫、8編の短編所収。以下「松井さんシリーズ」)は、心やさしいタクシー運転手松井さんを主人公に、ファンタジーあふれる不思議で愉快なお話が集まっており、読後にあたたかいほのぼのとした気分にひたらせてくれる。
 そこで、「松井さんシリーズ」を読む導入と位置づける「白いぼうし」(光村4年)の学習では、まず、@ふしぎ、A松井さんのプロフィール、B松井さんらしさ、といった読みの視点を見いだすとともに、「松井さんシリーズ」に対するイメージを持つことをねらった。
 次いで、そのような視点で他のお話を読み重ねるにあたって、1人1冊ずつ文庫本(約600円程度)を買い与えた。他教科では、もっと高価な実験教材や製作材料を買うのだから、たまには国語科でも1人ひとりが本を手にしてもいいのではないかという発想である。  文庫本を手にした子どもたちの反応は、上々。嬉しげに、すぐページをめくりだした。

 そして、先の3つの視点で色分けした付箋に内容をメモをし、それを文庫本に貼りながら、読み進め、各々の作品の視点に基づいた読みをまとめた。
 松井さんは田舎から出てきて3年になることや、タクシーのプレートナンバーなどを発見するたびに歓声が上がり、計150ページほどを、作業を伴いながらも、ほぼ全員が、3時間あまりで読み終えてしまったのだから、その旺盛な意欲の発揮ぶりがうかがえる。
 作品を読み重ねると、自ずと
 ・この話は、○○と似ている。
 ・松井さんの周りでは、いつも不思議なお客さんが乗ってくる。
 ・松井さんは、人が喜んでいると自分の喜びのような感じがする。
などと、話を比べ出した。

 そこで、8編の中からお気に入りのお話を選び、その理由を交流することを通して、登場人物の人柄をふくらませたり、ファンタジーのおもしろさにふれたりして、「松井さんシリーズ」のおもしろさを読み味わうとともに、それぞれの読みの共通項をくくり、シリーズの特徴をまとめるに至った。その過程で、松井さん像や作品像がふくらんでいくなど、視点に基づいた読みの深まりが見られた。
 学習のまとめでは、これまでの読みを通して理解したことをいかし、作品中のエピソードなどの具体例を挙げて、シリーズの紹介や、松井さんへの手紙など、各自の思いが表現しやすい方法を選択して作品を書き表した。
 学習後、残りのシリーズや他のあまんきみこの作品を図書館で借りて読む姿が多数見られた。1冊の文庫本が起爆剤となった。
(滋賀大学教育学部附属小)