[特別寄稿]
心に届けるメッセージ
安 藤 三 央

「みんなが生まれて初めておうちの人からもらったプレゼントは何だか分かるかな。」
 私が小学校一年生だった頃、担任の中根先生が問いかけた。考える私達に、中根先生は優しい口調で、
「それは、あなた達一人一人の名前。みんなの名前は、おうちの人が一生懸命考えてくれた世界でたった一つの特別な贈り物なの。だからあなた達は、自分の名前を大切にしなくてはいけないの。そして自分の名前は世界中の誰よりも上手に書けなくてはけないの。」
と言って、とても丁寧に私達の名前をノートに書いてくださった。美しく書かれた自分の名前がとても格好良く感じられ、私はその日から自分の名前が大好きになった。
 あれから十年以上が経った。今でも自分の名前を書くときにはあの話と先生の字が必ず頭に浮かんでくる。そのため、慌てて名前を書いてしまうと中根先生に叱られるような気がして、急いでいても丁寧に書き直してしまうのだ。
 また、あの話には先生からの大切なメッセージも込められていたのだと考えるようにもなった。

 私の夢は教師になることだ。去年は二週間の貴重な小学校実習も体験させて頂いた。最終日の前日、最終日には子ども達へ感謝の気持ちを表したいと考えていた。考えた末、中根先生の名前の話をすることと、今度は私が美しい字で一人一人の名前を書いて贈ることを思い付いた。名前は、幼い頃から続けている習字で書くことにした。 翌日、子ども達の前で名前の話をし、みんなの名前にはおうちの方からの愛情が詰まっていること、私もその思いを感じながら一生懸命一人一人の名前を書いてきたことを伝えた。誰一人として目を逸らさず、真剣に話を聞いてくれた。最後に一人ずつ名前を呼び、皆の前で書いてきた名前を披露すると、
「わぁ、かっこいい。」
「先生すごく字うまい。」
と、子ども達は大歓声をあげた。自分の名前を大事そうに見つめる子、次は誰が呼ばれるのかと身を乗り出し、友達の名前に注目する子。その表情はきらきらと輝いていた。子ども達の嬉しそうな笑顔に、私は胸がいっぱいになった。

 あのとき中根先生は「上手」という言葉に、内面を大切にするからこそ感じられる見た目の美しさがあるというメッセージを込めて贈ってくれたのだろう。だから私は話の最後にこう添えた。
「自分の名前を上手に書くというのは自分の中身を大切にすることとつながっています。」
 私は今までたくさんの先生に出会い、たくさんの話を聞いてきた。話の内容が難しくても忘れられず、成長してからやっと理解できたり、後に大切なことに気付かせてくれたりする詰もあった。心に響いた中根先生のあの話のように。
 全てがすぐに理解できなくても、いつか理解できるその日まで子ども達に話を覚えていてもらいたい。心に響くメッセージが届けられるような、そんな先生に私はなりたい。
(京都女子大学学生)