▼冒険は華々しい行為と思われがちだが、南極に人生を捧げた元越冬隊長、村山雅美さんの考えは違った。生前、雑誌に「我 々の踏むプロセスはきわめて常識的です。その結果が前人未踏の大冒険などと言われるにすぎない」と語っている。奇跡もまた、着実な積み重ねから起きるらしい。先だって、「ハドソン川の奇跡」と呼ばれるも不時着を成功させた米国の機長は「訓練通り仕事をしたまで」と淡々と語っていた(「天声人語」2月27日)。

▼学校で学習をするということの意味を考えているとき、心に飛び込んできたのが村山雅美さんや機長の言葉。発明や発見を含めて多くの人の心をとらえることの始まりは、基礎をきちんとすることであるということ。我田引水に考えを導くとすれば、学校の基礎は「約束事を守る」ことの大事さを繰り返し教えることであろう。教科の学習はすべて約束事で成り立っている。ノートに何を書くか、どのように答えるかから始まり、大事な言葉や文の精査は約束事の枠を決めてはっきりするものである。

▼個性や創造力を育てるという名の下に、枠を決めないで自由に活動をさせ、それを可とする風潮がある。恣意的な活動ではなく、指示や方法を示す。そのためには、一つ一つ丁寧に手順を踏んで確実に力になるまで習得をはかることの大事さを見直したい。(吉永幸司)