巻頭言
地域間における医師偏在のホントの理由
多 事 騒 論

 医師不足に関する問題が連日マスコミで取り上げられている。いつもながら、日本のマスコミは社会の問題点を国民に正しく伝えない。事実であっても、ある一部しか報道しなければ、真実とは違った印象で伝わる。先日、某紙の元副社長とお話する機会があった。同社の医療関係の記事は医師免許をもつ一名の編集委員の言いなりに書かれており、偏った報道内容になっていないかと心配し助言したが編集部は聞き入れなかった、と呆れておられた。NHKが数年前に全国自治体病院長を集めて医療問題に関する特集を組んだ際、開業医に比べて労働条件が極めて悪いために勤務医が不足しているのだ、と実情を切々と訴えたシーンだけは全面カットされた。

 従来、医学部を卒業し医師国家試験に合格した研修医の多くは母校の各診療科(医局)に入局し、大学附属病院や医局から派遣された関連病院で研修していた。初期研修の後、へき地の病院に長く勤務すると技術革新の目覚しい先進医療についていけなくなるため、若手の医師が半年から一、二年交代で勤務していた。ところが、新制度により研修医が研修指定病院を自由に選べるようになり、大学附属病院の若手医師が不足して医局制度が崩壊し始め、医師偏在の問題が急速に顕在化した。マスコミが報道するとおり、これは事実である。厚生労働省は新研修医制度の実施の目的について、専門領域だけでなく、各科にわたる総合医療や在宅医療に携われる医師を育成するためと説明している。これが虚偽なのである。

 各省庁はもちろん下部機関の人事権を掌握している。ところが厚生労働省だけは、その直轄機関である国立病院の人事権(院長をはじめ全医師)を各地の由緒ある大学の医局に握られていたため、他省に対して面子が立たなかった。だから、何としてでも医局制度を崩したかった。医局制度を存続させ、研修医の教育カリキュラムの変更を強要すれば、医療過疎を助長させずに所期の目的を達成できることなど、聡明な官僚たちは容易に想定できたはずである。官僚もマスコミも、その罪は重い。

 学歴差別から開放され、研修先を選別する立場にある研修医も、その五、六年後には常勤医として医局や市中病院から選別される立場になる。厚生労働省の思惑は外れて、医局制度は今までと少し違った形で存続するかもしれない。