▼体験をして分かることがある。皆が力を会わせた慰労の会の計画を担当する係から、コメントを求められた。仕事に共に関わったこともあって、失礼のないように資料を調べ、言葉を選んで準備を整え時をまった。ところが、会が始まって手順が違った。すっかり混乱し、感情を抑えきれないまま、予定していたねぎらいも言えずあまりいい気分にはなれなかった。

▼少し滅入って自分の気持ちを整理しているうちにある研究授業を思い出した。その授業は、スピーチを順番に発表するものであった。「あすは、あなたが一番に発表するのです」と予告され、少年は前日の夜から暗誦をして出番を待っていた。授業が始まった。「今日は、発表会です。最初は」という言葉が終わらないままに少年は教卓の所へ飛び出す勢いであった。ところが、「スピーチの前に昨日の復習です」という指示のもと、少年はしばらくまたされることになった。復習に予定外の時間を必要として、少年の意欲は衰えた。そして、発表する時には授業開始時の勢いはなかった。

▼少年が悔しい気持ちで発表を終えたことは誰も知らない。そして、不信感が芽生えているのも誰も知らない。しかし、あのときのふてくされたような顔を今も覚えている。少年の気持ちが改めて理解できる一つのできごとであった。(吉永幸司)