冒頭文を読む 「海の命」
吉 永 幸 司

1、「分かったこと」から
 物語文では冒頭の文章を読むことはかなり緊張感を伴う。「海の命」(立松和平)は次の文章から始まる。
父もその父も、その先ずっと顔も知らない父親たちが住んでいた海に、太一もまた住んでいた。季節や時間の流れとともに変わる海のどんな表情でも、太一は好きだった。
「ぼくは漁師になる。おとうといっしょに海に出るんだ。」
 子どものころから、太一はこう言ってはばからなかった。

 授業では、「分かったこと」として、「太一が住んでいたところ」「海が好きだった」「漁師になる」「はばからなかった」等の言葉をあげてくる。言葉を選び出すことで理解をしたように、子どもは思う。
 読むとは言葉を選ぶとともにその意味づくりをすることである。とすれば、選んだ言葉の関係づけが大事になってくる。

2、関係づけて読む
 「父もその父も」あるいは「顔も知らない父親たち」から分かることは、太一の家系はずっと漁師であったということを理解して文章の意味作りをする。つまり、太一は、先祖代々続いているという歴史の重さを感じさせることである。太一は気がついていないけれど漁師を家業としていることを理解させることで意味づくりができる。家業とすることは、海へ出かけて漁をすることであるということを理解させるのである。
 「季節や時間の流れ」や「どんな表情」からは、海の表情を想像させると意味作りができる。荒れた海、快晴の海がある。また、冬の海、夏の海、季節によって魚の種類が違う。天気も違うなど、海を生活の場にする人たちでなければ分からないような環境を想像させ、海への思いを広げさせる。
 「海に出るんだ」の言葉からも様々に想像ができる。「いつ」「だれに」「どのような状況で」「なぜ」「どのような気持ちで」等の言葉を補って考えさせると、父親を誇りに思う太一や海を生活の場にする少年の志が理解できる。もちろん「はばからなかった」は辞書で意味をしっかりと理解させる必要がある。

3、学び方を学ぶ
 冒頭文を「分かったこと」で語句を選び、その語句から考え方を指導する。このことが学び方の耕しになる。自力で読む力を育てるということで意味作りの指導をしたい。
(京都女子大学)