本棚  生活環境主義でいこう! 琵琶湖に恋した知事
嘉田由紀子 語り/古谷桂信 構成 BK1
岩波ジュニア新書 2008.5 780円
生活環境主義でいこう!

 近代技術主義でもなく自然環境保全主義でもない生活環境主義の考え方をわかりやすく紹介している。

 治水政策を河川改修やダム建設中心に行ってきたのが近代技術主義である。そのためには大金が必要であり、環境も破壊される。ダムの貯水量には限界があり、それを超えれば放流せざるをえない。その際に堤防が決壊して洪水が起きることがある。一方、流域住民はダムができたことで安心して洪水への備えをしなくなるので、洪水の被害は大きくなる。
 昔は、流域住民が川や堤防を利用しながら、管理もしてきた。河川法の施行後は、1級河川は国が管理することになり、住民の生活から切り離されてしまった。
「生活環境主義の考え方では、人と自然を分断して管理するのではなく、その『近さ』を生活者の視点から自覚し、かかわりを強めることで共感をはぐくみ、結果として自然との共生を実現しようとしています。」(p160)

 嘉田氏が取り組んできた琵琶湖の研究や琵琶湖研究所の研究活動についても紹介されている。琵琶湖の豊かな自然と人々の暮らしとの共存を考えるきっかけを与えてくれる書である。(常諾真教)