▼新任教師として教壇に立った卒業生の電話。声が弾んでいる。「丁寧な言葉で話をするって大事なことですね」と言葉を結ぶ。

▼彼女は特別支援学級の子と出会う。コミュニケーションができない、人間関係力が弱いと感じた彼女は、丁寧語から指導に入った。何か依頼する時、友達言葉より粗い言い方であった。「お願いします」「ありがとうございます」を言わなかったら手伝わないと心に決めて2か月過ごした。

▼この子とこのまま心が通じないのではないかという不安を抱えたままの日々であったという。ところが、2か月を過ぎたある日、「先生、教えて下さい」と文末を丁寧な言葉で依頼をした。今までの不安な気持ちがこの瞬間吹き飛び、彼女の言葉で言えば「思わず涙が出てきた」「うれしくて、抱きしめた」「言えたじゃない」と感激のひとときだったという。以来、その子は、丁寧な言葉を使う子になった。

▼家庭から、この頃、丁寧な言葉で話ができるようになったといううれしい連絡。職員室でも「いい子になった」とすこぶる評判がいい。

▼「どうして、丁寧にお話ができるようになったの」と彼女が尋ねたところ「だって、先生が好きだもの」というのが答えだった。またまた、「うれしくて泣いた」というのが電話の向こうの声。丁寧語が人を育てるちょっといい話。(吉永幸司)