巻頭言
比べる力に焦点化した国語学習
佐 藤 明 宏

 最近、クリティカルシンキング(批判的思考力)の大切さが述べられるようになったが、一つの物事を見ているだけでは批判はできない。批判的な言説は何かと何かを比べたときに成り立つのである。文章を評価し、判断するときも同様である。PISA型読解力の問題として紹介されている「落書き」に関する問題もヘルガーとソフィアの落書きに対する意見文を比べるという問題であった。「贈り物」に関する問題では、主人公の女性を残酷であるととらえるか優しいととらえるかということが比べられた。すなわち、批判的思考力を育てるための基礎となる力が比べる力なのである。

 教科としての国語学習での比べることの実践は、学年段階の違いによって、@語と語を比べる。A文と文とを比べる。B段落と段落とを比べる。C文章の初めと終わりを比べる。D作品全体を通しての表現と内容の変化を比べる。E同じ作者の他の作品と比べる。と発展させることができる。

 さらにこれを古典や外国の作品、漫画や映画などの他のメディアまで広げたらどうだろうか。

 かつて私は千葉省三の「たかの巣取り」とマーク・トゥエインの「トム・ソーヤの冒険」を比較教材研究し、附属の教官に比べながら読む授業を行ってもらった。そのときに子どもたちは日本社会のわんぱくとアメリカ社会のわんぱくの差について考えることができた。異文化理解教育である。

 また、源氏物語の現代語訳と里中真知子の源氏物語を読み比べてみても面白い。紫の上の死の場面の描かれ方が決定的に違っている。宮崎駿監督・脚本の映画「魔女の宅急便」と角野栄子の原作「魔女の宅急便」と比べてみると、そのクライマックスの持っていき方やトンボという少年の人物設定など大きく違っている。このそれぞれを比べることでそれぞれのよさが明らかになる。

 さらに国語科で育てた比べる力ま、学習で活用できる。総合的な学習で大切にされていることが体験や経験である。まずものごとの表面や外側に見られる違いを比べ、さらにはどうしてそういう違いが派生したかを考えさせることで、隠れている物事の本質まで迫っていくことができる。生活の中での活用力を育てるものになる。

 以上、PISA型読解力の育成が求められる今、比べる力に焦点化した国語学習を提言したい。
(香川大学教育学部教授)