比べて読む 重ねて読む
西 村 嘉 人

「クラムボンって、いったい何なん?」
「何が言いたいのかさっぱり分からん!」
と、いつもと変わらない子どもの言葉からスタートした「やまなし」の学習である。
 学習のテーマを「作者の表したい世界を想像しよう」と子どもに提示したことも災いし、
「分かるわけないやん。さっぱりやわ。」
とスタート時からブーイングの連続である。
「五月と十二月と二つの話が書いてあるでしょう。二つを比べて違いを見つける読み方を先ず進めてきましょう。」
と子どもたちをなだめて一人勉強へと向かわせた。

 一人勉強の後の話し合いで、
「クラムボンは五月だけ。」
「五月はクラムボンとか魚とかカワセミとか出てくるけど、十二月はやまなしだけ。」
「カワセミはコンパスのように黒くとがっているけど、やまなしは黒い丸い大きなもの。」
「五月は日光で、十二月は月光。」
と、自分が見つけた内容を発表し、
「何となく分かったことが少し出来てきた。」
と学習に向かいだした。

 続いて、教科書に資料として掲載されている「イーハトーブの夢」を一人勉強で読み進めさせた。一人勉強の途中で
「宮沢賢治の生きた時代って、『やまなし』の『五月』だと思う。『十二月』だと思う。」
と声をかけてみた。
 さらに「よだかの星」を一人勉強で読ませる。このときも、
「よだかって、宮沢賢治の生き方に似てない?」
と一人勉強中の子どもたちに声をかけた。
「分からない物語」と感じていた「やまなし」が、「イーハトーブの夢」「よだかの星」を重ねて読むことで、子どもたちは分かった気になったようである。

「宮沢賢治は、自分は理想の世界を十二月だと思って書いたのだと思う。『イーハトーブの夢』を読むと、宮沢賢治は生きている間は物語とかあまり評価されなくて、『よだかの星』のよだかも生きているうちはいやな目にあって、最後星になって輝いている。やまなしの『五月』は魚やカワセミが出てきて、こわい世界で、十二月はやまなしが落ちてきて平和な感じがする世界だから、宮沢賢治は自分が理想と思う世界を十二月に書いたのだと思う。」

 今まで澱んでいた思考が堰を切ったように言葉として子どもたちの口からあふれ出してきた。
 子どもの力は素晴らしい。
(彦根市立城南小)