ディベートの落とし穴
伊 庭 郁 夫

 8月に大津市教育研究所主催の講座でディベートの研修を担当した。受講者は、約百名である。
 その講座で、最初に「ディベートの落とし穴」に触れた。特に強調したのは、二点である。

 一つは、勝負にこだわり過ぎる落とし穴である。勝ち負けばかりにこだわると、誰のせいで負けたのかといった責任追及になる場合がある。
 ディベートは、言葉のボクシングであるから、勝負はあってよい。そのことで、真剣勝負が可能になる。ただし、勝つことが良いとは限らない。勝ったチームは、満足して終わってしまうことが多い。ところが、負けたチームは、「しまった。あの言い方がよくなかった。今度ディベートをするときは、別の言い方で挑戦してみよう」というように次へのステップにつながる。少なくとも、私の体験ではそうであった。
 そこで、私はディベート後の評価は、「良い点をたくさん見つけ褒める」ことを提案する。子どもは、認められて成長する。自信を持たせることが大事である。安心して、楽しくディベートに取り組ませたい。話し方、聞き方、切り返し方などの良い点を指摘できることは、聞き手を育てることでもある。ディベートをやってよかった、もっとやりたいという意欲にも通じる。
 ただし、繰り返しディベートを行うなど慣れてきた場合は、点数をつけるのも悪くはない。この点が二つ目の落とし穴に通じる。

 二点目の落とし穴は、聞き手が十分育っていないのに評価させる点である。論理的な話し方ができているかどうか、説得力があるか否かで評価するべきである。ところが、「自分の考えと同じだから」「あの人と友達だから」といったレベルで評価してしまう場合がある。きちんと、評価の観点を示す必要がある。
 具体的には、「立論」では、理由をはっきりさせ、説得力があったか。「質問」では、立論に対し鋭かったか。「答え」では、質問にわかりやすく答えていたか。「最終弁論」では、質問や答えをふまえ、説得力があったか。更に「全体」として、態度やチームワークは良かったか。言葉遣いは適切であったか。それぞれの場面や立場において評価させたい。
 講座においては、12名ずつのグループを作り、前半3名対3名、後半も3名対3名のディベートを体験してもらった。「実際に体験して、ディベートの楽しさと指導のポイントがわかった」といった感想を頂いた。方法だけでなく、つけたい力を考えて指導したい。
(大津市立和邇小)