立松和平「いのち」の世界 「海の命」(6年)他
川 那 部 隆 徳

 立松和平の「いのち」をテーマにした作品には、教科書教材である「海の命」のほかに、「川のいのち」「木のいのち」「田んぼのいのち」「街のいのち」などがある。それらは、「いのち」は受け継がれ、たゆまなく生き続けていること、人間も自然への尊敬と畏敬を持ちながら自然の一部として生きていくべき存在であることなどが主題となっている。

 そこで、本学習は、各々の作品が投げかける「いのち」を表す言葉をとらえ、それらを関連づけることを通して、作者の「いのち」に対する考えをつかんだり、各自の「いのち」に対する考えを明確にして表現したりする力の育成を主眼とした。

 まず、「海の命」では、「いのち」に関わるキーワードをみつけ、それらから作品の主題について考えることを通して、他の作品と比較する視点づくりをした。

C 太一は、クエをうたなかったので本当の漁師にはなれなかったのだと思う。
C 太一は、クエをうたなかったから、本当の漁師になれたのだと思う。
T 同じ部分について考えているのだけれども、全く正反対の考えだね。
C 教科書にあるように、クエをうつことで本当の一人前の漁師になれるのだから、やっぱりクエをうたなかった太一は、本当の漁師ではないんだと思う。
C クエをうつことは、父の敵討ちみたいなものであって、目標だったのだけれども、無駄に命を奪うことになるから、太一はうたなかったのだと思う。
C 「千匹に一匹」みたいに、クエを海のめぐみだと感じたのだと思う。
 (以後、なぜ、太一はクエをうたなかったのかの発言が続く。)
C 漁師としては、うつことで一人前になるのかもしれないけれど、うたなかったから、人間として一人前になったのだと思う。
T なるほど。じゃ、「一人前」というのを、立松和平さんはどのように考えているのかな。

 このような話し合いを通して、「一人前の○○」が、他に「○○のめぐみ」「それぞれの人物にとっての○○」が、立松和平の「いのち」の作品を読む視点となった。

 第二次では、これら三つの視点にもとづいて他の作品を読み重ねていった。
 さらに、第三次では、読み取った内容を総合し、立松和平の「いのち」のとらえ方と比較しながら、「いのち」に対する自分の考えをまとめた。
(滋賀大学教育学部附属小)