巻頭言
言 葉 を 交 わ す
山 田 浩 之

 先日、ラジオからイタリアで暮らしている日本人の話が聞こえてきました。イタリア語を身に付けるとき、一番役に立ったのは、お店での買い物だったと話していました。店員さんと品物や値段について言葉を交わす中で多くの言い回しを覚えたということでした。彼の地の日本人が伝えているのは、生活での言葉を交わす経験が、生きた言葉を身に付ける上で大切であるということでしょう。

 さて、今時の子どもが言葉を交わす場面はどうでしょう。その量も多様性も少なくなっているのではないでしょうか。
 もっと考えると、「授業で子どもは言葉を交わしているのだろうか」という疑問も浮かんできます。「子どもが話したり、聞いたりする姿が授業で減ってきてはいないか」、「子どもが、言葉を介して思考したり、意思を伝達したりする姿が減ってきたのではないか」、そんな心配をしています。

 子どもが、他人と言葉を交わす機会の、最重要でかつ最後の砦が授業ではないでしょうか。
 授業において言葉を交わすことが、生きた言葉の獲得を左右するなら、私たち教師は、子どもが言葉を交わすようになるための戦略をもたなければなりません。
 しかし、形式的な話型を指導しただけでは、生きた言葉を身に付けるようにはなりません。授業の中で、言葉を交わすことでよく分かったり、考えが深まったりするから、そのよさが分かるのです。それなくして、生きた言葉を身に付けることはありません。子どもが、言葉を交わす学習場面を意図的に作ることが必要です。

 私どもの学校では、授業における子どもの学びを支える方法や技能として「学習スキル」というものを設定し、日々取り組んでいます。「学習スキル」の中には、話すスキルや聞くスキルというものもあります。言葉を交わす子どもの実際の姿を、研究会にお出でいただき、ご覧いただければ幸いです。

 さて、私の買い物はというと、回数、金額ともにコンビニが1番、2番がスーパーマーケットです。買い物のほとんどがこれで済んでいます。コンビニのアルバイトのお兄さんにどんな生きた言葉を掛けようか、悩んでいるところです。
(新潟大学教育人間科学部附属新潟小学校)