巻頭言
安心して語り合う
櫻 井 幹 大

 夏のある日、中学校区の人権教育講演会に参加した。いきなり「四人組を作って、自己紹介をしてください」と言われた。「初めて会った人ばかりだから、照れくさいな」と感じたのは、私だけではなかっただろう。シートが配られ、自分の悪いところに○をつけるものだった。私は、「頑固者」「荒っぽい」「怒りっぽい」に○をつけた。そのシートの横を見ると、逆転の発想で「意思が強い」「元気がよい」「責任感が強い」と書かれていた。自分を否定するのではなく肯定的に認め、「自分らしさ」に自信をもち、自分を価値のあるものとして思えるようになれば、人のことも大切にしようという気持ちも起こるということである。

 次に、12枚のカードに「お金」「親友」「自分自身」「名誉」「健康」「パートナー」「子ども」「仕事」「近隣の人」「仲間」「生徒」「学習」と転記した。そして、カードから「とりあえず、なくても大丈夫」と思えるカードを3枚握りつぶし、次々に握りつぶしていって、残りカードを2枚とした。握りつぶしていくときに「握りつぶしてごめん」とさすりながら決断した。最後に、2枚のカードを紹介しながら、その理由も説明していった。はじめは、「人は何を残したのだろう」「私の決断はよかっただろうか」と思っていたが、聞き役は黙って聞いてくれた。口を挟まずうなずいてくれたので、すごく話しやすかった。安心して語り合える雰囲気が何より心地よかった。頭と身体を使った体験を通じて、気づきや発見、とまどいや共感といった感性からの学びが大切にされる。お互いの考えを出し合うことで、ちがいを認めながら豊かな学びにつながっていくことを実感した。

 授業においても、「聞く」ことから始まると思う。単に「聞く」という関係ではなく、子どもの心の奥にある、言葉になっていないことに対して、心で「聴こう」という姿勢が必要だ。そして、答えるのではなく、心で「応える」ことが大切だと思う。

 決まった正解にたどりつこうとするのではなく、自分たちの経験や感じ方を出発点としながら、お互いを尊重し合い、学びを共有していくことの大切さを再認識した。自分を見つめ直すとてもよい機会となった。私が、最後に残した2枚のカードとは…。
(鈴鹿市立郡山小学校)