子どものやる気 先生のその気
森  邦 博

 「詩」を教材にして音読活動を中心にすえての授業を参観。
 教材の「詩」を全員で音読。その次に、今日の音読のめあてを話し合う。これが導入場面である。
 本時は子どもたちにとって、何を学習するのかが分かりやすい。「音読」をするのである。
 従ってどれだけやる気を持って活動できるかが先生の工夫のしどころ。先生もきっとそう思ってお られたのだろう。
「うーん、3年らしいいい声で音読できたね。」
「○○さんは口を大きく開けていたね。」
と、全体に、個別的にとよい点を見つけて「感心したよ」「うれしいよ」「すばらしいよ」「がんばっ てるね」と肯定的なメッセージを発信し続けておられた。

 これがよかった。というのは、私が教室に入ったときに最初に気づいたのは、「あ、泣いている子どもがいる」であったからである。「この子は、音読活動に入っていけるかな?」と心配した。導入の時間中は、残念ながら泣きやまず、すねて後ろを向いたり、床に座ってしまったりしている。しかし、先生の肯定的な言葉を子どもたちに向けて発信し続けておられた効果が、班ごとに音読を練習しその後で発表するという次の場面になって、この子の周りの子の動きに現れた。

 周りの子が、励ましの声かけをする。しかし、当然すぐにはやらない。
 しかし、班の子どもはあきらめない。プリントを見せたり、その子が一人で音読する役割の場面では、ちょっと体に手を触れて支えようとしたり…。
 少し気分がほぐれたのか、声が出始める。
 そして、その班が発表するときには、「やれる?」という言葉かけ。
 それはまるで先生の姿そのもの。
 班の発表のあとには、すぐに、「うまく音読できたねえ、△○さん(泣いていた子)がリズムよく言えてたねえ。感心や」と先生の声。班の子も同じように大きくうなずく。△○さんの顔が一気に晴れやかに変わる。それは見事な変わりようであった。

 その後も班の発表は続き、終わりには、「もう一度やってほしい班」として、△○さんの班も推薦されたのであった。
 今度の音読は、先の発表よりもしっかりとした読み声。もちろん、先生の言葉もほめ言葉。
 授業のはじめと授業終わりで、この子の表情は大きく変わり、音読も見違えるような変化であった。そのことを、本人も、班の友達も喜び、先生も認め励ましている。
 梅雨の蒸し暑い日の午後だったが、さわやかな印象が残った授業であった。
(大津市教育研究所)