巻頭言
豊かな感性を育てるために
清 田 浩 文

 以前、6年生を担任していた頃に「草臥れて宿かる頃や藤の花」という芭蕉の俳句を紹介したところ、藤の花がどんな花か知っている者が誰もおらず、驚いたことがある。実物を見せたところ、「その花なら見たことがある、しかし、それが藤の花だとは知らなかった。」ということだった。テレビゲームやマンガのキャラクターに関する知識は豊富なのに花の名前も満足に答えられない子どもたちが急増していることに危機感をおぼえ、このままではいけないという思いを強くした。

 国語の学力は算数の学力と密接な関係があり、しかも感性豊かな子どもほど学力が高い。数学者の藤原正彦先生もいろいろな場で同様のことを述べておられる。情報過多の現代社会において、子どもたち一人一人の感性を豊かにしていくことは、きわめて重要である。

 私は、ベストセラー「声に出して読みたい日本語」が世に出る10年以上前から、「平家物語」やカール・ブッセの「山のあなた」、西郷隆盛の「大業を成す人」、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」といった名文や詩をクラス全員に配り、朝の会や帰りの会、国語の授業の最初の1分間等を利用して暗唱させてきた。
 また、名言や故事、心に残った言葉を毎日児童に紹介し、先人の知恵に学び、四季折々の自然の姿を表す言葉にふれる機会を与え続けてきた。
 さらに、一部を伏せ字にして「今日の一句・一首」を紹介する取組も行ってきた。たとえば「露の玉蟻たぢたぢとなりにけり(川端茅舎)」の「蟻」を「X」に置き換え、そこにどんな言葉が入るのか、考えさせてきた。

 このような実践の継続により、子どもたちは日本語のもつリズムの心地よさを味わい、表現の豊かさに体ごと浸ることができた。そして、語彙が増え、季節の移ろいにも敏感になり、国語はもちろん他教科の学力も向上していった。
 教師の工夫次第で、子どもたちの言語感覚はどんどん磨かれていくのである。
 教師自身が美しい日本語の使い手となり、「生きた言語環境」として、感性豊かな子どもを育てていきたいものである。
(熊本県山鹿市立米田小学校)