巻頭言
海外教育事情「若者の自立」
溝 川  孝

 私は退職後十余年、何故か海外旅行に魅せられて旅に出ます。
 雄大な自然に向かい佇む時、古代の遺産を畏敬の念をもて拝する時、自然と共生する人々の営みに共感する時、その時々に心身の高揚や躍動を感じ至福の境に浸ります。亦、訪問先の人々との交流から異文化の一端に触れるとともに、多くの教示を得ます。

 一例「若者の自立」について
☆アメリカ・ハワイでは
 「ここでは親の養育責任は高校卒業まで。祝いに中古の自動車を一台与えたら終わり。日本とは大変な違い。天国だよね!」と二世のお婆さんが話すのを聞きました。

☆スエーデンでは
 若者は十七歳で親の家を出て下宿生活。生活費等経済的に困窮する場合は借用書を入れ親から借りるケースもあるとのこと。

☆ニュージーランドでは、
 高校卒業後は大きな家に移り、若者同士の共同生活。国費による援助制度もある。親は小さな家に転居、ガーデニング等の趣味を楽しみ余生を送るのだそうだ。

☆アメリカ、ミシガン州立大学
 「学生寮は所帯者寮」との説明に何故と驚く。「若者は義務教育の高校を卒業し一度社会体験をした後、研究課題や資格取得等各自の目的を持って入学する。従って結婚している者が多数を占める」との説明に納得。

☆同大学、日本人留学生の談
 「留学費を親からの送金に頼るのは自分のみ。他の留学生は学費は各種の奨学金制度を活用、生活費はアルバイトで稼ぐ」とのこと。

 前例の国々では若者は義務教育(高校)卒業後、親元を離れ自立するのが当然、社会慣習である。
 一方、我国の若者の多くは義務教育(中学)終了後、高校は勿論、大学は当然、成人(二十歳)以降就職、結婚等親離れ出来ぬのが実状である。加えて最近「ニート」や「パラサイト」等、新種の引き篭もり族が登場、その数六十五万人を超えると言う。
 「若者の自立」の彼我の違いは何故だろうか。新たな疑問が芽ばえる。更なる教示の閃きだろうか? 海外で出会った子供たちの生き様が脳裏に鮮明に浮かび上がり、点滅する。
 本年は終戦後六十年、現在の若者は三代目に当たる。「売家と唐風に書く三代目」(江戸川柳)と洒落てばかりでは済まされまい。時代の急激な変貌を痛感する昨今であります。老人の戯言。
(大津市教育会前会長)