真似をしていいんだよ
杉 澤 周 一

 高学年の担任の先生が、この頃特に女の子の挙手、発言が減ったという話をしていた。女の子に限らず、確かにこの悩みは私も何度も経験してきたし、またよく耳にすることである。
 子どもが話すことに抵抗を持ってしまう原因の多くは、恥ずかしい、まちがったらいやなどの心理的な壁と話し方がわからないという技術的な壁があるようである。これを打破するには、どんな指導が効果的なのだろう。

 日頃、「大きな声で」や「しっかりと」話そうなどと指導して、上手でないとだめだという印象を与えていないだろうか。はっきりした口調で話すことの方を大切にし、できれば弾む声で話せるといいと話す。その良くない見本を私が示し、よい見本を子どもの発表で示すようにしている。
 実は、この“子どもの見本”を大切にし“真似をしよう”と指導している。音声言語の指導は、教師が言葉で、こんなふうに話そうと指導するよりも、身近な子どものたちの好例をいくつも示す方が効果的だと思うことがよくある。

 さて、声を出す見本を示したが話す内容についても、上手な話し方は、教室の中の誰かや教科書などの文に注目し、どんどん真似をしようと話している。芸術の世界で、真似から入るものが結構あるらしいが、その効用は音声言語指導にも通じるものがあるように思ったのである。どれを真似をするかは、教師が指摘すればよいし、自分で気付くようになれば、それはまた一つの力だと思う。高学年なら、“話せること”に憧れを持たせるようにしている。

 スピーチも、“真似”をよく使う。導入段階での順番は、原稿が書けて練習が終わった子どもからにしている。早い順番の子どもたちの多くは意欲的で、声が弾み原稿の内容も良い場合が多い。だから、身近な真似のできる生きた良い見本になりやすい。
 日常的に、堂々と真似をして良いのだという安心感をみんなに与え続け、発表やスピーチで少しでも何かほめることを探してほめ続け、真似をする機会を設けて真似の文化を興すと教室が弾んでくるような気がする。

 「今の話し方は、よかったね」と取り上げ、即座に色画用紙の短冊に書いて教室の壁に貼る。例えば、このように日常的に教師がアンテナを張り巡らし、機会あるごとに印象的に取り上げ、みんなで力をつけようとしているんだということを継続的に根づかせたい。以前、言葉だけの指導を繰り返していた私は、「言ってるんだけどうちのクラスの子どもは…」とぼやいていたような気がする。
(能登川町立能登川西小)