良 い と こ ろ い っ ぱ い
中 嶋 芳 弘

「今年から私の子どもが先生にお世話になります。」
 彼からの年賀状にそう書かれてあった。彼は私が20代の若い教師であったころの教え子である。年賀状を手に、幼い日の丸顔のくりくり頭、そして、大きな目が浮かんできた。

 1年生に入学してきた彼女は、幼い日の彼そっくり。丸顔でくりくりっとした目がかわいい女の子であった。
 学級担任が出張したときなど、補欠授業で彼女の居る教室に行くときもある。そんな日の一こま。
「お父さん。小学校の時、先生に、教えてもらったって、言ってたよ。」
「先生がもっと若かったときに、○○小学校の先生をしていてね。そのとき、4年生から6年生まで受け持ったんだよ。」
「お父さんて、どんな子だった。」
「Sちゃんそっくり。丸顔で、目が大きくてね。男気があるというのかな。やんちゃなところもあるけど、やさしい子だった。」

 そんなことがあって、彼女は私に出会うと「中嶋先生、おはようございます。」「中嶋先生、こんにちは。」「中嶋先生、さようなら。」名前を付けて元気な笑顔で挨拶をしてくれるようになった。

「お父さん、何が得意だった。」
「前にも言ったけどね。優しいところがあってね。こんなことがあったな。お父さんは、図工とか物を作るのが得意でね。あるとき大きな石を並べて花壇の囲いを作っていたんだ。先生に頼まれてね。そのとき、石で指を挟んじゃってね。血も出てるし、痛いに違いないんだけど。『大丈夫』って笑ってるんだよね。一緒に石をさわっていた人のことを思ってね。」
「ふうん。すごいね。さすが、お父さんだ。」

 丁寧に色鉛筆で縁を塗ってから、中を方向をそろえて塗っていく。「お父さんに教えてもらったの。」図工の自習の時間、丁寧に塗り上げた絵を見せに来た。
「わたしね。幼稚園の時、しかられて廊下に立たされたことがあるよ。」
「悪いことしたのかな。」
「何でか忘れちゃった。」
「お父さんは、……」
「廊下に立たせたりしないけど、悪いことしたらしかるよ。お父さんだって、しかったよ。誰にだって、良いところも悪いところもある。悪いところはなおして、良いところいっぱいにしていけばいいんだよ。」
「うん。」
と頷いて、Sちゃんは、ちょっと元気になった。私は、彼女のドラマを良いドラマにする名脇役でありたいと思う。
(彦根市立旭森小)