私の出会った子どもたち 〜Tさんとの出会い〜
池 嵜 繁 伸

「池嵜先生、フローティングスクールでお世話になりありがとうございました。
 ぼくは、竹生島で階段にのぼっておまいりをしました。五七五の俳句を書きました。ひしくいのカッターに乗って船をこぎました。このようなたくさんの思い出ができました。
 うみのこ見学から当日までいろいろとお世話になりました。どうもありがとうございました。」


 航海終了後、ある子ども(Tさん)から私のもとへ届いた手紙である。
 Tさんは自閉的な傾向があり、初めて体験することに強い不安を感じる子どもということで、担任の先生が事前に「うみのこ」船内の見学を希望された。
 事前の見学では、学習室、食堂、甲板、宿泊室など、停泊中の船内を1時間程度案内してまわった。
 初めて出会ったときには、緊張して落ち着かない様子ではあったが、あいさつと自己紹介がしっかりとできた。学校でずいぶん練習してきたようだ。徐々に打ち解けてくると、自分から手をつないだり、話しかけたりしてくれるようになった。帰り際には、ずいぶん落ち着いた様子で、目と目を合わせてお礼を言い、担任の先生と一緒に作ったという手作りクッキーを手渡してくれた。
 ほんの短い時間ではあったが、Tさんと心を通わせることができたように感じた。

 そして、航海当日の朝。乗船指導や出港見学の最中、どうしてもTさんのことが気にかかる。
「おはようございます。」
と声をかけると、照れくさそうに「おはようございます。」とあいさつをしてくれた。
「この前のクッキーおいしかったよ。ありがとう。」と続けると、
「5月24日のこと! 池嵜先生、下の名前なんて言うの?」と目を輝かせて応えてくれた。1ヶ月以上前の日にちと私の名前を覚えていてくれたのである。
 航海の途中では、Tさんと一対一でかかわることは、ほとんどできなかった。一泊二日の航海を終え、下船していく明るい表情から、ちょっぴりたくましくなってくれたような気がして、うれしかった。

 フローティングスクールの所員として、日々多くの子どもたちと接してきてはいるが、一対一の繋がりを結べる機会はほとんどない。どうしても、○○小学校の5年生の子どもたちとして一括りにとらえてしまいがちである。子ども一人ひとりの心の動きに敏感に反応し、寄り添っていきたい。そんな思いに改めて気づかせてくれたTさんとの出会いであった。
(滋賀県立びわ湖フローティングスクール)