巻頭言
意 欲 と 「 実 の 場 」 の 力 〜あっちゃんに学ぶ〜
舟 橋 秀 晃

 すばらしい生徒に出会った。我が校の生徒会長である。
 大柄でがっしりした体つき、結んだ約束は守り、人を悪く言うことのない彼は「あっちゃん」とみんなに慕われている。サッカー部では、この夏までゴールキーパーとして練習に励んでいた。

 だが、彼には大きな壁があった。不登校傾向があったのだ。それでも教室に来ると、「あっちゃ〜ん、おそいわあ」「休みすぎやでえ」「どうしたん、もっと早く来てえなあ」と周りの生徒たちから声が掛かる点が救いだった。彼の人柄によるものだ。
 そんな彼は、みんなに期待されるままに、昨秋、「地域によい印象をもたれる学校作り」を訴えて選挙に出馬し、会長に選ばれた。こうなると、そう休んでもいられない。みんなに頼られるままに、彼の欠席は次第に減っていった。

 ただし、彼にはもう一つ、壁があった。人前で話すことである。選挙こそ原稿の棒読みで乗り切ったが、毎週32人の部員全員が集まる執行部昼食会議はどうしようもない。これはもう、慣れさせて自信を持たせるしかない。
 そこで、顧問の私は1回目の昼食会議では、司会をやってみせた。2回目以降では、議題をあらかじめ彼に示し、彼に議題を読み上げてもらった後、一つ一つの議題について説明を補った。
 5回目を越えたころから、定刻になると彼が自ら開会宣言をするようになり、10回目を過ぎたころから、彼のほうから先に議題を私に聞いてくるようになった。そうなったころから、各行事の挨拶でも不思議と原稿を堂々と読めるようになってきた。

 驚いたのは7月である。彼の公約だった地域清掃にケーブルテレビの取材が来たときだ。
 「何をしゃべったらよいのでしょう」とカメラを向けられてあわてる彼に、私は、「3つだよ。なぜこの行事をしようと思ったか、やってみてどうだったか、地域の反応は、の3つ」とだけ助言し、その場から離れた。遠巻きにこっそり見ていたが、彼は3分間カメラの前でその3点について、すらすらしゃべってみせたのである。
 会長も、そして生徒会も、大きく育った。本人の意欲と「実の場」での繰り返しがこんなにも人を育てるものなのかと、今さらながら驚嘆している。自分自身の授業も、少しでもそのような場にしていかなければならない。
(大津市立石山中学校)