巻頭言
「 や ま ん ば 広 場 」 の ロ マ ン ス
林    勉

 私のお世話になっている幼稚園の裏側には、変化の激しい山並みが続いている。
 この山には、私自身にも思い出がある。それは小学生時代に全校で「兎狩り」をした山だからである。この思い出の山へ、幼児とともに出かけたとき、「やまんばさんが住んでるみたい」とつぶやいた発想から「やまんば広場」と名付けられて、既に何年かが経過した。

 山主様方の好意で自由な使用も認めてくださっている。
 急な坂道もあれば回り道もある。山の中腹には幼児らしい集会もできる格好の広場もある。
 現代っ子には山登りが苦手の子が多い。場所によっては、普通の歩行では登りにくい場でのドラマである。
 「あんたこわいのか。」「うん……。」「あのな、右手で松の根っこをつかみ、左手でその草の根っこの所をつかんでみ。」「うんやってみるわ……。」「そしてな、ひっぱるようにしてな、おしりを上げるのやで。」「うん。わかった。やってみるわ。」「それ、登れたんやんか。ごほうびの表彰状やで。」と木の葉を渡している。二人は満足感に満ちた笑顔で心の通いを味わっている。

 半信半疑のやまんばのほら穴には、いつも何かが置いてある。赤土をこねてできた団子、竹の幹を削ってできた抹茶のおまんじゅう。友達から習った折り紙、そしてお手紙。その返事を書く担任も多忙であるが、その表情はロマンに満ちて明るい。
 竹の皮に書いた、やまんばの返事を宝物にして部屋に大事に飾っているという母親の報告もある。

 残雪の光る春先、「やまんばさん どうしているか、逢いに行きたい」と言う。子どもの熱意にほだされて雪山に出かけていった。
 雪どけの水の音が、神秘にこだまして聞こえてきた。その響きが幼児にとってはやまんばの声に聞こえたようで、その感動は何にも変え難い。

 幼児の遊びは単純で気紛れでもある。しかし、こんな遊びの表情には室内遊びでは味わえない無限の世界が広がっている。純粋な幼児期の心を新鮮でみずみずしいものにすることが我々の中心課題にしたいと学んだ時でもある。
 この心は生きた自然との触れ合いや対話、自然を舞台に「遊びきった」時に培われるものと信じてやまない。
(近江町立ふたば幼稚園園長)