朝 の 歳 時 記
廣 瀬 久 忠

 職員室前の小黒板に日替わりのメッセージを書き続けている。



5月8日(月)    立 夏
 暦の上では、五日の「立夏」からもう夏に入っています。風薫る五月。教室の窓を大きく開け、さわやかな風を呼び込みましょう。

5月10日(水)   春 も み じ
 カエデの仲間には、燃えるような若葉をひろげるものがあります。これを歳時記では「春もみじ」と呼んでいます。昇降口を出て、すぐ右に見えるカエデがそうです。

5月16日(火)   走 り 梅 雨
 五月中旬から下旬にかけて梅雨を思わせるような天気が続くことがあります。これを「走り梅雨」と呼んでいます。数日で終わるのが普通ですが、年によっては長引き、そのまま梅雨になってしまうこともあります。

6月6日(火)    山 滴 る
 今の季節の山を形容する季語です。新緑が滴るように夏の山は緑でおおわれ、樹木は今を盛りに成長しています。



 この黒板を書き替えるのが、私の朝一番にすることである。
 読んでくれる子どもは数少ないであろう。小黒板の前に立ち止まる子どもに出くわすと「これでよし」と感じる。漢字には、全てルビを振っているので一年生も読める。高学年が二人、三人で声を合わせて読んでくれる時もある。

 6月6日、担任が出張された6年の教室に行くと、A君が私に、
「夏の山を『山滴る』と言うんでしょう。じゃあ、春や秋や冬はなんて言うんですか。」
 半ば、気持ちは小躍りしつつ、これはチャンスとばかりにクラスのみんなに少し時間をもらって「山の四季」を表す季語の話をした。黒板に、 山□□、山滴る、山□□、山□□ と書き、ヒントを出しながら、子どもたちに考えてもらった。山を擬人化している季語である。冬「眠る」が一番出やすかった。続いて秋。紅葉のきらびやかさをヒントに「粧う」。春は「春を迎える人々の心情」を手がかりに「笑う」が出てきた。それぞれの季語に落ち着くまでにたくさんのことばが出された。さながら「言葉の宝庫」である。
 A君の存在でこの子どもたちと「ことば」の学習を共有できた。
 「ことば」にふれる小文。石部の自然にふれるきっかけとなる小文を読んでくれる子が増えることを願っている。
(石部町立石部南小)