海 外 で 出 会 っ た 子 ど も た ち
西 村 嘉 人

 「ジュッポン、センエン、ヤスイヨ! カッテ、カッテ。」
 小学校3、4年生ぐらいであろうか。少女がタイの民族扇子を手に私たちに近づいてくる。エメラルド寺院とタイの王宮の見学を終えて、バスに乗り込もうとしていたときのことである。日曜日であるから学校は休みのはずである。休みに家族の商売の手伝いをしているのであろう。たどたどしい日本語(おそらくこの言葉だけを習ったのだろう)を使い、にこやかに扇子売りをしている少女の姿が忘れられない。荘厳華麗な寺院や王宮を見学した直後のことだけに、子どものことがよけいに気になったのである。

 11月6日から30日までの25日間という長い期間、勤務校を離れて、海外の教育事情を視察する機会を得た。訪問国および都市は、タイ(バンコク・アユタヤ)、イギリス(ロンドン)、カナダ(トロント・オークビル)、アメリカ(サンフランシスコ)である。
今回の海外派遣で私が一番見たかったのが、各国の子どもの生活している姿であった。図らずも研修初日に目にした子どもの姿がその後の視点になったのである。

 アユタヤの寺院の敷地内のある小さな小学校。小学校6年生ぐらいの女の子が "What's your name?" と習いたての英語で話しかけてくる。 "My name is Yoshito Nishimura" と答えると、名札をしげしげと見つめながら名前を確かめている。側に恥ずかしそうに控えている2人の女の子。おそらく女の子3人の仲良しなのであろう。話しかけてきた子が積極的に仲間を引っ張って英語を使おうと近づいてきたのである。いたずらっぽい目、輝く笑顔、こぼれる白い歯。生き生きとした子どもの姿に出会うと心も和む。

 ロンドンの学校で校舎内の案内をしてくれた9年生(日本で言えば中学2年生の年齢だそうだ)の男の子。彼は、授業中の教室にノックをして入り、我々のことを授業者に話し、入室の許可を得てから我々を教室に招き入れてくれる。そして、何年生の何の授業かを簡単に説明してくれるのである。全く見事な案内ぶりである。また、彼はよく図書室で学習しているらしい。図書室へ案内してくれたときにその様子がうかがえた。司書の方と親しげに話し、司書の方も彼を大変好意的に受け入れ話を交わしておられる、そんな姿に彼の日常の生活ぶりが見える。「君は大変優秀な生徒なんでしょうね。」という訪問者からの意地悪(?)な質問にも「優秀かどうかは分からないけれど、努力はしています。」と素晴らしい答えを返してきた。

 オークビルの小学校で我々を出迎えてくれた障害児学級の子ども。先生と一緒に出てきて玄関先でコートを受け取って脇のテーブルにせっせと運んでくれている。ダウン症と自閉症の子どもであると先生が教えてくれた。部屋に入る前に "Good morning" と声をかけるとゆっくりとした言葉で挨拶を交わしてくれた。少しはにかみながら "Good morning" と話すこの子の笑顔が何とも言えず可愛らしかった。

 海外研修期間中、多くの子どもに出会うことができた。初めに書いた子ども以外は、学校内で出会った子どもばかりであるので我々をゲストとして気遣いながら迎えてくれた子どもたちである。
 教室で学習中に話しかけてもはきはきと答えてくれた子どもたち。通りかかると笑顔で手を振って出迎えてくれた子どもたち。もう少し言葉が通じたらもっとよかったのになあと、今更ながら残念に感じている。
「子どもはどこの国でも同じ」。我々の未来の宝である。
(滋賀大学教育学部附属小)