バーテンダー1


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ここ何日かでバー やバーテンダーにまつわる本を
何冊か改めて読んでみた
カクテルやそれに付随するウンチク話は山ほどもある
元々酒場での四方山話が発端で今となれば
ご立派な立伝にまでやたら出世した

「あいつが一番だ!」
と某スタウトビールメーカーがキャンペーンで打ち出した
ギネスブックもその内だろう

バー好きなお客の立場で書かれた本が多いのでこちらとの
ギャップが随所に感じられるのは仕方がない
ともかくバーテンダー、バーマスターと言う職業
やはり、世間一般からは特殊な所が多い

ブラザーのエイトマンとの談話

「こんな仕事はこれをしよう、これを目指すといった
モノではない
気がつくとなっていた
長年、漂流をしていてそこに流れ着いていた
そんな気がするんだがな」

そんな話を聞き思わずに膝を打った

「そうなんだ!我々の仕事もそんなモンなんだよ」

『バーテンダーを目指しています 
どうすればマスターに成れるんですか?』

開店以来、今までに若いのから年配のお客まで
何度もそんな質問を受けてきた
『自分もこんな店をやってみたい』
そんな風に思ってもらえるのはありがたいし
それが華なのだが・・
それが又そう、これが単純なモノではないのだ

バーテンダースクールというのもあるし
どこかの店で見習いをさせて貰う手もある
資金があればとりあえずに店を確保し仲間内を
集めてのママ事ぐらいは今の時代には簡単に
出来てしまえるだろう
今はカクテルについての情報もかなりなものだろうから
少し練習すれば技術面では何の不足もないだろうし
サービス面でもコンビニのバイトレベルで、取りあえずの
格好がつくかもしれない
しかし、問題はそこからなのだ
コンビニで200〜300円で買えてしまうものが
何千円にも化けてしまう事もある

そのバーテンダーが注ぐ事で生命水と変化し
わざわざ、お客が足を運んでくれ
『美味しかった』と言ってもらえるのだ
これが単純なはずがなかろう

この話は面白いのでもう少し掘り下げてみようか・・ピカボス

 

 バーテンダー2

 

 

振り返ればおかしなもので幼少の頃には
酒に関するナニガシが苦手であった
酔った親父がいやだった
普段優しい親父がどうなってしまったのかと
戸惑うしかなかった
法事か何かで親戚が集まり酔っ払っている
大勢の大人達の酒の席に囲まれて
「こっちへ来い」
と呼ばれるほどの苦痛はなかったものだ
まるで妖怪変化の団体にとって
喰われるほどの恐怖だった
それが自分が酒の相手をする稼業をしているなんて
神様の悪戯か、運命めいた皮肉なものか

今でこそ市民権を得ているが私がこの業界にひょんな事から
足を踏み入れた頃はとんでもない話だった

まともな男がバーテンなんぞなぜ?
世間では決って犯罪者はバーテン風の男と言われていたし
実際、周りは怪しい人間だらけだった
組関係の人間がカウンターに入っているのも珍しくもなかった時代だ
カウンターの中も外も普通ではない空気が漂っていた

人工の照明に照らされて、昼間とは別な世界が
確かに存在しているのを実感したものだ ・・ピカボス

 

 

バーテンダー3

 

 

ここのバーテンダーのコミニュでバトルが
始まっているので丁度タイムリーで面白い

その頃はまだ青の時代だった私は世の中の大人達の
夜の顔を初めて知りインパクトをうけた

昼間に見せる顔から別物に豹変する夜の顔
大人達ってこんなにもバカバカしく愚かで脆い者だったのか
それまで自分が抱いていた厳格でお堅い大人社会の
イメージが一変した

陽が落ちてから、仮面を脱ぐもの被るもの
少なくともそれまでの私は一般人は大体が同じトーンの
まま、まる一日を過すものと思っていった
しかし、夜になると別な顔を覗かす社会があるのを初めて知った
考えてみれば自分がただ幼かったのだ
お堅い顔をしたオジ様方は別な仮面を身につけ
太陽の光に息を潜めていた夜光虫達が
ネオンにつられて動き出す

「昼間の人間が働いた後、その金を持って我々の所に来るんだから
俺たちは夜の人間でないと出来ない発想を持たなければ
いけないんだよ・・
でないとワザワザ足を運んでくれるお客達の相手ナンザ
出来ないんだ」

その頃の先輩にそう教わった
それは確かにそう思うが時代の流れとともに虚ろに変わってきている
今は、昨日まで会社員だった人がマスターに転身している時節
カウンターの外も内も左程変りはなくなったし
それもまたそれでひとつのスタイルだろう

しかし、その頃は客人と店側の人間が明らかにまったく違ってはいたが、
それでいて店全体の不思議なバランスが保たれていたものだ

それだけ世の中全体が大人だった様な気がする・・ピカボス

 

 

バーテンダー4

 

 

普通では遭遇できない人達や場面に連日連夜触れ
何年間か過ぎ、無性に嫌気がさした
こんなものはまともな男の仕事じゃないと自己嫌悪に陥った
何もかもを洗い流したかった
水商売から足を洗い昼のサラリーマン生活を無我夢中でやった

しかし、根っからの虫が騒ぐ

昼間の所帯くさい喫茶店
すかしたカクテルバー
若いモンのバカ騒ぎをあおるだけあおるパブ
自分をどこかに置かなければ出来そうにもない享楽スナック

どれもが今更自分に出来そうにもなくまったくやる気が起こらない
そんな折にひょんな事から欧羅巴に行く機会があり
向こうの店の空気感に触れてきた

確信がもてた
これならやれそうだし予感を感じられた
もろもろを突っ放す自分の中の何かが発火した

それは何かを具体的にうまくは表現出来ない
ただ、確かなのはバーテンダー店主それぞれの
ドライな侠気だったのだろうか・・ピカボス

 

 

バーテンダー5

 

 

バーテンダーという職業は微妙なものだ
町の名医者と褒め称えられたかと思えば
地獄への誘い水を提供する憎まれ者にもなる
どちらも当て嵌まっている所がにくい
その曖昧なところが今となれば気に入っているのだが・・

しかし、お客もお客で、よくぞよくぞとこちらを
持ち上げてくれたかと思うと一変し、
石ころでも見るような眼で見たりするものだ
どっちもどっちの所があるが、来店がなくなれば困るのはこっちだ
不利なこっちがその移り気を泳がす度量が必須だろう

『バーテンと呼ばれるのは心外だ』
と言う仲間達がいるが私は別に気にもならない
バーテンであろうが兄ちゃんであろうが・・
その店でのべンチマークが只いるだけの話

しかし、バーテンダーという職業を必要以上に
自分から崇められようとするのはいただけない
たかが、酒のツマミをドコドコのナニナニで、こだわりの農家と
提携したなどの値打ちのこいだフンコロガシなんざ、
有り難くもなんともない
そんな身体にいいのがいいのならサプリを青汁で流しておけばいい
町の酔っ払いを相手にしている、ただの親父のスタンスが
程よくいいのかも知れないのだ
カリスマだのナンだのと値打ちをつけたところで
メッキが剥がれて恥をかくのがオチで
ブームが去った後の面倒まで誰もみてくれない

こっちは死ぬまでやっていかなければならないのだから・・ピカボス

 

 

バーテンダー6

 

 

少し、以前にカフェブームが巷に到来した
その時にはそれに少しはこちらも便乗できる
仄かな期待も少しはあった

しかし、現実は時間が経ってみると何て事がなかった
やがて、あまりにも安易に ・・カフェと出来過ぎて
何がどうなってしまったのか判らないうちにブームは終焉した

ブームとは去ってしまうものだ

確かに時代も変わってしまった
晴れがましいよそ行きであった外食がよそ行きでは
なくなりただの外食になった
回転寿司やファミレスがいい例だろう
雰囲気を売る喫茶店がいつの間にか大衆食堂の如くになった
ああだ、こうだと能書きばかりと店側と客側の
化かし合いが文字通りのバブルの如くに膨れ上がった

今までの様にはいかないとは思ってはいたが
ラーメンを出すバーを見て行きつくトコロまで行った感がした

確かに、今の携帯やネットの情報が飛び交うこの時代に
リアルな人の心中の喜怒哀楽に分け入る
バーテンダーというこの稼業
一体、方向性はどこに見い出せばいいのか
切々と訴える客人と向かい合い、何とか力づけの
いいアンサーをと模索していると
どこからかのメールが入り、当の本人さんが
何事もなかったような顔でそそくさと出て行ったりする

まだそんな小ざかしいものが何もなかった時代

トラブルやいざこざがしょっちゅう店内で繰り広げられたが

不器用ながらも人間同士のリアル感があった
お互いの心情を分かり合えた爽快感があった
感情のぶつかり合いから生まれる達成感があった

何も昔話に酔いしれるほど枯れてもいなければ甘くもない

ただ、世間ではすでに大人といわれている年代の人達が
ちゃんとしたバーやバーテンダーなりを
川のように流れている自分自身の人生に上手く、忍ばせてやっても
面白くスムーズに流れ出すだろうにと思うだけだ・・ピカボス

 

 

 バーテンダー7

 

 

以前に何かの文章で読み、心に残ったくだりがある

ミラノからどこかイタリア国内の地方都市の大学に入学し
独り暮らしをはじめた娘と、遠く離れたお父さんと
手紙でのやり取りでの件だ

「もうそちらの生活には慣れたのかい?
君の学校は想像していた通りなのかな
もう親しい友達は出来たのかい?」

娘を想う愛情いっぱいの親心が文面の隋所に現れている
その中ほどで

「もう君には行きつけになるBARは出来たのかな?」

あたかも当たり前の様な問いかけがあった
イタリア人にとって、自分の行きつけのBARをもつという事は
自立した大人として認めるという意識があるらしい

実家から遠く離れ、見も知らぬ誰も知った人間のいない町で
そんな処や人物を得るのは実に心強いし安心感があるものだ

血の繋がった身内でもない
顔見知りの友人でもない
学校や職場での同僚でもなければ上役でもない

珈琲やアルコールとそれの代金で繋がる独特な関係
そこには利害から信頼という関係に昇華する
その程よい距離感でないと成り立たない付き合いができる
近過ぎても離れ過ぎてもいけない
そんなつながり、だからこそお互いが言い合える事もある

ハリネズミが寄り添うようないい体温を感じ合える

バーやバーテンダーと客人との、向き合い方で大いに
参考になったものだ・・ピカボス

 

 

バーテンダー8

 

 

バーに関するウンチク本などを紐解くと

『そこにのぞむには暗黙のルールめいたしきたり等がある』

とよく書かれてある
なんだか、下手をすると堅苦しくも思うだろう
店側からするとそれらはあってない様なもので
それも我々の存在と同じくして窮めて曖昧だったりする
余程のバーでなければ、何て事はない
メンバーズオンリーの会員制でもなければ基本的に
誰でもが入店オッケイなのだから

ただ、普通の大人としての常識内の範疇はもちろんである
アルコールを主体にした所で、他人同士が肩を寄せ合う場である
当たり前以上の独特なマナーが必要になる
基本的にバーとは、店内が狭くて周囲の客人達の腹の虫も様々だ

あまりにも辺りに迷惑をかける御仁と
酔っ払って違う世界に行ってしまった方はご遠慮願いたい

何も堅苦しくなど、どこのバーテンダーも微塵にも願っていないはずだ
程よいアルコールの力で店全体が良い空気になるのを日々望んでいる

セッタ履きにジャージならどうなんだい?
という意見もあった
病院の面会室でもなかろう
ローカルで店をやっていると必ずこんな手合いがいる
どこのバーであろうともそこの店主なりが思い入れと金を
たっぷりとかけて創り上げてきた空間である
気に入って、同じそこで過すのならば自分もある程度
装って、そこに同化する楽しみがあった方が
バーでの楽しさは倍加するだろう
きちんと店全体とのバランスをとったバーテンダーの身なりに
お客側も併せた方が何事も上手くいくものだ

以前、スッピンでもイイかなと来店したご婦人がいたが
後から、訪れた何人もの男性客の前で居た堪れなくなっていた
なかなか、素顔でパブリックスペースの場で様になる女性はそういない
恥をかくのも自己責任てところか

程よい緊張感があってこそ酒が上手くなるってなものだし
自分の好みでもない寝ぼけたような女の素顔など、
誰でもが見たくもないだろうに

カウンターの中のバーテンダーは人形ではないのだ・・ピカボス

 

 

 バーテンダー9

 

 

バーテンダーとはあくまで受身である
だから、店の空気は客人しだいなところがある
少々の事があろうとも聞き役に徹していて間違いはない
その事を何年もかかって気がついた

盛り上がりに欠けるお客にこちらが気を利かせて湧かせてやっても
長い目で見ると決して商売としてはいい方向には行かなかった
お客としてはバーテンダーの楽しい話を聞くよりも
自分達の時間の方が大事なのだ
退屈そうなカップルにせっかくだからと楽しませようとしても
後々なぜか敬遠される事が多かった
冷静に考えてみると自分よりもバーテンダーの方が彼女を
楽しませては男としては面白くもなかろう
その辺から店の人間として、自覚を持たなければ命取りになる

あくまで、お客が主役なのだ
重くて暗いお客にはそのトーンにあえて合わせる
なかなか難しいが自分を出すのはエッセンス程度にとどめて
おいて損はない

それとバーにはパトロンが必要だろう
そういえば聞こえはよくないがそんな存在が大体どこのバーにもいる
と言う事は店を経営するにあたって大事な要素である
店にとっての強力なファンてところか
昨日今日のあてにならぬ、風向きひとつで足が遠のく
一般のお客ではない
バーテンダーとパトロンとは深い信頼関係で繋がって
いなければならない
それこそ、いいパトロンの為にはほとんどを
投げ出す覚悟も必要な時がある
何も、ただバカバカと金払いがいい客をつかめという
意味ではない
色んな意味で本当に良いものを理解していて、
それに対する正当な
代価をキチンと払ってくれる客人という意味だ

それと、店側にも立ち、何かにつけて考えてくれる
協力者ともいえる
そんな存在になる信頼できるいいお客、
パトロンが店についているとレベルの低いモロモロしたものに
引きずられ、迷わされる事がない
安定したクオリティの高いバーを維持できるのだ
本人の金遣いだけではない
そのパトロンの鶴の一声で何人ものお客が吸い寄せられる
影響力の持った人物である
それがなければ、下手を打つと反対にその個人一人に
振り回される事になるだろう
何も普通のお客をないがしろにして良いと言っている
のではない
もちろん、それはそれで大事な事だ
パトロンの存在はあくまで店のもろもろの水準をしっかりと
させておく為の事だ

そんなパトロンをバランスよく何人キープできるかに
いいレベルの店の存続が
かかっているといっても過言ではないだろう・・ピカボス

 

 

バーテンダー10

 

 

このバーテンダーやバーについて今回がラストにしよう
店のホームページにでも掲載してもいいかも

すし屋でもなければ飯屋でもない
居酒屋でもなくて純喫茶店ではありえない

バーでのバーテンダーとしてのサービス業は特別だとつくづく思う
先ず、アルコールが主体、酒に酔う大人相手
しかも、女を使っての色気でもなくむしろそれを出さない
ストイック性が必要でそれで納得させ、いい時間を買って貰う

落ち込んだサラリーマンには明日があるからとビールを注ぎ
愛を無くした女性にまだまだこれからの出会いが
待っているからとカシスソーダの仕上げをする

生臭い2代目社長にヨイショの気配りを忘れず
凶器を忍ばせたヒットマンに力水を与える

こんな世の中と嘆く男に共感を示し
勝ち誇る慢心者に明日はわからないからと反省を促す

命の炎が揺らいでいるおんなには横風からの盾になってやり
恐れ知らずのは若者にモットイケと悪魔のささやきを吹き込む

尻込みしか知らない女には愛想をつかし
近づいてくる同業者には本音を隠す事が出来ず
厄介者からのムリをきいてしまう

世話を焼いた若者からは頭から砂を浴びせられ
年長者からの生意気な奴だの反目を受け入れる

いかなる団体からも距離を置くがそれらからの達観をよしとする

下心を持った人間を瞬時に見抜き、こんな奴かと失望を与えてやり
金に困った人間には同情するふりができる

愛に貪欲過ぎた人間を軽蔑しながら純粋な愛に釘付けにされる

ヒト騒動起こそうと企てるふとどき者の肩を持ち、
地道に生きていく援けを自分から名乗り出る

身の程知らずには現実を思い知らせ、引っ込み思案な夢想人に
想いを寄せる

寄生虫の駆除を欠かさないがたまの毒っ気も飲み込んでしまう

そんなこんなとピカレスクなバーテンダーは生きていくのだ ・・ピカボス