IRSとは……
IRS(Inertial Reference Unit:慣性基準装置)は第3世代旅客機(在来ジャンボなど)で搭載されたINS(Inertial Navigation System:慣性航法装置)の精度をさらに高めた装置です。-400ではL(レフト),C(センター),R(ライト)の3基のIRSを装備しています。IRSは機体の3軸(ピッチ、ロール、ヨー)方向に対してリング・レーザー・ジャイロを配置しており、この中に2つの反対方向に回転するレーザー光線を照射して機体が動いた時に生じる周波数変化により加速度の大きさを検出し、この加速度を時間で積分する事により機体の現在の対地速度及び距離を算出、現在位置を特定します。IRSはINSと違い機械的な動作部分がない事から信頼性が極めて高くなっており、INSに比べて飛躍的に精度がよくなっています。またIRSはINSとは違ってナビゲーション(航法)がシステムから切り離されており、航法部分はFMSに吸収されています。
IRSはIRU(Inertial Reference Unit)とIRSモード・セレクターにより構成されます。IRUはIRSの心臓部とも言うべきもので、機内の電子機器に対して以下のデータを送出するユニットです。
●primary attitude(pitch,roll) ●heading(true,magnetic) ●acceleration(lateral,longitudinal,normal) ●angular rate(pitch,roll,yaw) ●inertial velocity(N-S,E-W,ground speed,track angle,vertical rate) ●navigation position(lat,long,inertial altitude) ●wind data(speed,angle,drift angle) ●calculated data(flight path angle&acceleration,along track&cross track acceleration,inertial pitch&roll rate,vertical acceleration,potential vertical speed)
PFDに表示される水平儀、ヘディング・ポインター、FPVインジケーター、昇降計やNDに表示される風のデータ、対地速度、機首方位、飛行方位は全てIRUからデータが供給されている事がわかります。ちなみに-400では767と同様昇降計にIRUのデータを使用している為、在来の飛行機とは違い昇降速度の表示に遅れがなく、現況をリアルタイムに表示する事ができるようになっています。IRUは内蔵しているイナーシャル・センサー(3つのリング・レーザー・ジャイロ及び加速度計)をプライマリー・ソースとして使用していますが、IRUを使用する為にはこの他に以下のデータが必要です。
イニシャル・ポジション(初期位置) | IRSをアラインメント(IRSを使用する前に各種データの初期化及びプリテストを行なう事)する際、CDUのPOS INIT(ポジション・イニシャライゼーション)ページLSK4RのSET IRS POSラインに現在位置を入力しなければいけない。このイニシャル・ポジションを基点とし、この地点からの方向・距離を絶えず算出する事によりIRSは現在位置を特定する。 |
気圧高度 | バーチカル・ベロシティー(昇降速度)及びイナーシャル・アルチィチュード(慣性高度)を安定させる為、IRSは気圧高度のデータを使用する。 |
TAS | ウインド・データ(風向/風速)を算出する為、IRSはTASのデータを使用する。 |
IRSが算出した現在位置をIRS POS(IRSポジション)と言います。これに対してFMC POS(FMCポジション)はFMCが算出した現在位置です。実はこのFMC POSが航法において重要な意味を持つのです。ND画面に表示されるナブ・レディオ、エアポートなどの位置データ、気象画像データ、ルート表示は、全てこのFMC POSとの位置関係により表示されるのです。もちろんNDに表示される自機シンボルはFMC POSそのものである。“あれっ、IRS POSが使用されているのでないの?”と疑問に思われるかもしれませんが、実はIRS POSはFMC POSのデータ・ソースの一つでしかないのです。どういう事かと言うと、在来ジャンボではINS POSが自機の位置として使用されていました。しかしジャイロの特性上INSドリフトという現象が生じ、飛行時間が経過するにつれ誤差が大きくなるという性質がありました。IRSではこの誤差がだいぶ小さくなりましたが、それでもやはりIRSドリフトという現象は発生します(ちなみにINSでは6〜7時間飛行するとその誤差は15〜20マイルに達する事も珍しくなかったそうですが、-400では日本からアメリカへ洋上飛行しても、アメリカ大陸へ接近する頃の誤差はわずか1〜2マイルだそうです)。そこで飛行中に自機の周辺にVORやVORDME,VORTACといったナブ・レディオが存在する場合、ナブ・レディオと自機との位置関係により自動的に現在位置を補正してしまおうというのがレディオ・アップデートという機能です。つまり在来ジャンボではINS POSにより現在位置を常に算出するというやり方でしたが、-400ではFMC POSのソースの一つとしてIRS POSがあり、日本国内のようにナブ・レディオが多数存在する所を飛行する時にはIRS POSを使わずにレディオ・アップデートによるPOSを優先する(この切り替えは自動的に行なわれる)というやり方なのです。もちろん-400でも、洋上飛行の際や地上においてはIRS POSがFMC POSのソースとして使用される。この時に使用されるIRS POSは、使用可能なIRS(通常は3基)のIRS POSの平均値となっています。
最近ではFANS装備の-400も登場しており、日系航空会社でも一部の-400においてFANSを搭載し評価運航を行なっています。FANS装備機ではGPS受信機が2基搭載されていて、FMC
POSには通常ON GND/IN FLTともにGPS POSが使用されます。IRS
POSもバックアップとして作動していますが、GPS
POSはIRSのようにドリフトがなく、軍による意図的な精度の低下が行なわれていない限りいつでも正確な情報を提供してくれるというメリットがあります。ちなみに777では全機にGPS受信機が搭載されており、GPS
POSによる運航が行なわれています。
レディオ・アップデート | FMCは自機の現在位置を算出する時、基本的には各々のIRSが算出した現在位置(IRS POSと言う)の平均値を使用するが、飛行中に周辺にVORやVOR/DME,VORTACが存在すれば、その位置から自機までの方位、距離を算出する事でより正確な現在位置を算出する機能を有している。この機能をレディオ・アップデートと言う。 |
《EICASメッセージリスト》 | ||
EICASメッセージ | レベル | 内 容 |
>IRS AC(L,C,R) | A | (L,C,R)IRUに供給されるAC電力が故障した時。 *L IRUはAC BUS3から,C IRUはAC BUS1から,R IRUはAC BUS2から電力が供給される |
IRS AC(L,C,R) | S | |
>IRS DC(L,C,R) | A | (L,C,R)IRUに供給されるDC電力が故障した時。 *L,C,R IRUはAPU HOT BATTERY BUSから電力が供給される |
IRS DC(L,C,R) | S | |
IRS(L,C,R) | A/S | (L,C,R)IRSが故障した時。 |
IRS MOTION | A | IRSのアラインメント中に機体に衝撃が加わった時、もしくは機体が動いた時。衝撃が止むまで、もしくは機体が停止するまでアラインメントは中断される。 |
IRS ALIGN MODE(L,C,R) | M | (L,C,R)IRSをアラインメントしている時。 |