1996年10月2日午前1時10分、アメリカ・フロリダ州マイアミ発ペルー・リマ経由チリ・サンチアゴ行きアエロペルー603便ボーイング757-200(N52AW)がリマを離陸して28分後に65Km沖合いの海上に墜落した。
この事故で運航乗務員2名、客室乗務員7名、乗客61名の計70名全員が死亡した。
事故当日の早朝、事故機の機体洗浄にあたっていた地上職員が左舷の静圧孔をマスキングテープで塞いだまま剥がすのを忘れ、さらにパイロットは運航前の目視点検(ウォーク・アラウンド)でそのことに気づかず、そのまま飛行したために、正しい気圧高度、速度が把握できなくなったことが直接の事故原因であった。
離陸直後、静圧管の閉塞により、まず速度が過少に表示され、スティックシェーカーが作動した。また、高度計も増加を示さないことから、パイロットは速度計と高度計の値が異常なことに気付き、緊急着陸することを決めた。しかし、静圧管を塞いでいたマスキングテープあるいは静圧管の機構自体のいずれかは僅かに空気が漏れ出す余地を残しており、気圧高度は徐々に上昇し、降下を開始する頃には気圧高度計は6000ftを指していた。パイロットは管制官にレーダ上の高度を尋ね、計器と同じ6000ftの回答を得て、自機は気圧高度計の指示通り6000ftにあると信じて降下を開始した。降下を進めるにしたがって、今度は外の気圧の上昇に静圧管内の気圧の上昇が追いつかなくなり、気圧高度は実際よりも高く、速度は速く表示されることになった。気圧高度計を信じて降下していたパイロットは正しい高度を知ることなく墜落に至った。管制のレーダースクリーン上に表示される高度表示は各航空機からトランスポンダを通じて送られたデータをもとに表示されており、航空機側の計測に誤りがあれば、その表示はやはり誤ったものであることにパイロットは気付かなかった。
本件事故後、ボーイング社はボーイング757の整備規程を改定し、静圧孔にカバーをつけた場合は機長のコントロール・ホイールに静圧孔カバー中のタグをつけること、カバーは目立つ色で警告フラッグがついたものを使用することを定めた。
◎関連文献(刊行年順) |
著者名 | 書 名 | 出版社 | 刊行年 | 頁 数 |
デビッド・ゲロー | 「航空事故」(増改訂版) | イカロス出版 | 1997年 | 249頁 |
遠藤 浩 | 「ハイテク機はなぜ落ちるか」 | 講談社(ブルーバックス) | 1998年 | 125頁〜128頁 |
全日本空輸株式会社総合安全推進委員会 | 「Contributing Factors(Vol.1)」 | 全日本空輸 | 1998年 | 95頁〜120頁 |
マルコム・マクファーソン | 「墜落!の瞬間」 | 青山出版社 | 1999年 | 31頁〜65頁 |