1992年7月31日午後2時頃、タイ・バンコク発ネパール・カトマンズ行きタイ国際航空311便エアバスA310-304(HS-TID)が、カトマンズの北北東約45Kmのスルヤクンド山麓のギョプテ山の中腹の岩壁(標高約3500m地点)に墜落した。この事故で乗員14名、乗客99名、計113名全員が死亡した。(邦人乗員1名、邦人乗客20名、計21名含む。但し乗客20名のうち3名は日米二重国籍者。)
エアバスA310の事故は本件が初めてである。
事故当時空港周辺は、激しい雨に見舞われていた。事故機は進入中にフラップの警告灯が点灯し、フラップを出し直したため降下が遅れた。パイロットは進入をやり直すため、タイ国際航空がチャートに進入開始地点として指定していたロメオポイント(カトマンズ空港の南約76Km)に戻りたい旨を管制官に伝えたが、管制官はシエラDME(カトマンズ空港の南約30Km)に戻るように指示を出した。パイロットはその後4度にわたりロメオポイントへの飛行許可を求めたが、管制官からは返事がなかった。この直後、機体は本来飛ばなければならない方角とは正反対の北に針路を取り、山岳地帯に接近し始めた。墜落の30秒前に副操縦士が機長にこのままでは危険であることを訴えていたが、機長には危険性の認識がなかった。GPWSが鳴り始めすぐに回避操作を取ったが、事故機は既に険しい山岳地帯に入りこんでいたため間に合わなかった。
事故の直接の原因は、パイロットが自機の位置と空港の位置関係を誤解したことにあると見られている。なお、管制官との交信に際し通信状態が悪いうえに、管制用語の使用が不適切であったために、互いに意思を充分理解できなかったこと、タイ国際航空の進入チャートには誤りがあり、本来進入開始地点ではないロメオポイントが進入開始地点として記されており、管制官と乗務員の間の意思疎通の障害となったこと、カトマンズ空港にはレーダー施設、ILSなどがなく、これらの施設の整備が遅れていたことなどが事故の誘因として指摘されている。
◎関連文献(刊行年順) |
著者名 | 書 名 | 出版社 | 刊行年 | 頁 数 |
デビッド・ゲロー | 「航空事故」(増改訂版) | イカロス出版 | 1997年 | 227頁〜228頁 |
遠藤 浩 | 「ハイテク機はなぜ落ちるか」 | 講談社(ブルーバックス) | 1998年 | 96頁〜99頁 |