事故詳細

(事故No,19700502a)

 1970年5月2日午後3時49分、アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク発オランダ領西インド諸島セント・マーテン行きAntillean Airlines(但し機材及び運航乗務員はオーバーシーズ・ナショナル航空からリースを受けた)980便DC-9-33CF(N935F)が、アメリカ領ヴァージン諸島サン・クロワの東北東約30マイルの海上に墜落した。
 この事故で乗員6名、乗客57名、計63名のうち乗員1名、乗客22名、計23名が死亡した。
 事故機は午前11時14分にニューヨーク・ケネディー国際空港を離陸し、巡航高度29000ftで飛行していたが、途中で天候の悪化により雷雲の回避を行ったり、また乱気流の通過のために高度を27000ft、次いで25000ft、21000ftに下げ、速度を落とすなどの対応をせざるを得なかった。目的地のセント・マーテンも天候が悪化していたため、管制は事故機に対しプエルトリコ・サンファンへの退避を指示し、事故機は午後2時46分に進路をサンファンに向けた。ところが、直後にセント・マーテンの気象状況の改善が報告されたため、管制は午後2時51分には一転してセント・マーテンへの着陸を許可し、事故機は再度針路をセント・マーテンに向けた。
 最初の着陸進入は、アンダーシュートとなったため、最大出力による着陸復行を行った。低高度で場周経路を回った後の2度目の着陸進入は、降雨による視程の急激な低下に見舞われ、再度着陸復行と低高度での場周経路の飛行を余儀なくされた。3度目の着陸進入は高度が高すぎ、やはり着陸復行せざるを得なかった。この時点で残燃料は限られており、機長はサンファンより近いアメリカ領ヴァージン諸島セント・トーマスへの着陸を決定した。しかし、残燃料は予想以上に少なく、さらに距離が近いサン・クロワへの着陸に変更した。サン・クロワに向けて低い推力での上昇を開始したが、上空が雲に覆われていたため、不時着水に備えて雲底高度以下での飛行を続けた。結局サン・クロワに行きつく前に燃料切れとなり、不時着水となった。
 着水後も機体は原形を保ち、このため機体が沈むまでに乗員乗客の半数以上が脱出に成功した。救助が来るまでの約1時間半の間、乗客は救命胴衣や、脱出用シュートを筏代わりにして身を任せていた。事故機には救命筏が登載されていたが、使用されなかった。機体は水深5000ftの海底に沈んだ。原因が燃料切れであることが明白であった為、残骸の調査は行われなかった。
 高度を下げたことによる燃料効率の悪化、サンファンへの退避指示と取り消し、3回の着陸進入、最大出力での着陸復行などが重なった結果、燃料の安全余裕がなくなったことと、パイロットがこの事実に気付くことが遅れたことが事故原因であるとされた。関与要因としては、管制がアプローチエリアの降雨を事故機に伝えなかったこと、乗客に不時着水に際して充分な注意事項の説明が行われなかったことが挙げられた。
 事故機は1969年に製造された。

◎関連文献(刊行年順)
著者名書 名出版社刊行年頁 数
デイヴィッド・オーウェン「墜落事故」原書房2003年165頁〜168頁
上記文献のうち現在も流通しているものについてはこちらで入手できます。
 


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