2005年4月29日午後9時39分頃、帯広発羽田行き日本航空ジャパン(日本航空インターナショナルの前身)1158便エアバスA300が、羽田空港へ着陸の際、補修工事で閉鎖中のA滑走路に着陸した。
乗員乗客計51名は全員無事であった。
補修工事(滑走路灯工事)は同日午後9時30分から翌30日午前7時まで行われる予定になっており、A滑走路閉鎖中の発着は平行するC滑走路で行うことが決定していた。実際の工事に伴う作業は滑走路閉鎖1時間30分後に開始する予定で、同機が着陸した際は幸い作業開始前であったため、工事車両等もなく事故に至らなかった。A滑走路の閉鎖は航空情報として事前に航空会社にも通知されており、同機のパイロットも閉鎖を知っており、管制に2度にわたりA滑走路で間違いないか確認したが、管制官は間違いない旨返答した。航空法上、離着陸について、操縦者は管制官の指示に従う義務があるため、同機は管制官の指示通りA滑走路に着陸した。管制チーム全体が閉鎖時間帯であることの認識を欠き、A滑走路に着陸するよう誤った指示を出したのが原因と見られている。
同空港の本件発生当時の管制チーム18名は、A滑走路の閉鎖を約1ヶ月前に知らされていた。この際工事日程は4月6日から10月1日の間の毎週水・木・金曜日の同時間帯に行われることが伝えられた。このチームが閉鎖対象日の閉鎖時間帯の管制を担当するのはこの日が初めてであった。同じチームの管制官は勤務に入る前に打ち合わせを行い、航空情報等について確認を行うことになっているが、当日午後3時からの勤務開始に先立って行われた打ち合わせで航空情報担当者がA滑走路の閉鎖について触れることはなく、責任者も誤りに気付かなかった。午後9時42分頃、午後10時からの交代要員の管制官が待機中に閉鎖中のA滑走路へ着陸許可を出しているのに気付き、指摘したため閉鎖の事実に気付いた。
国土交通省の調べで、A滑走路への進入を許可したレーダー室の管制官も、A滑走路への着陸許可を出した管制塔の管制官も、当日がA滑走路閉鎖の日だとは自覚しておらず、同じチームの他の管制官も全員閉鎖を知らなかったり、忘れていたことが明らかになった。
なお、後続の札幌発羽田行き日本航空1036便ボーイング777-200も午後9時40分にA滑走路への着陸を許可された。A滑走路への進入が許可された際に、1036便のパイロットも管制にA滑走路で間違いがないか確認したが、管制官からは間違いがない旨の返答を得ていた。午後9時42分、管制官が誤りに気付いてC滑走路への進入滑走路の変更が可能か1036便に確認した。1036便の機長が理由を確認すると管制官はA滑走路が閉鎖されている旨回答したため、機長は着陸復行を求めた。着陸復行の要望を受けて管制官は、A滑走路への進入を継続するよう滑走路閉鎖と矛盾した指示をした。指示が矛盾するうえに二転三転することから、午後9時43分1036便の機長は着陸には危険を伴うと判断して着陸復行を通報し、着陸復行を行った。1036便は約10分後にC滑走路に着陸した。1036便の乗員乗客計161名は全員無事であった。
国土交通省は日本航空に謝罪するとともに、本件発生当時、担当していた同じチームの管制官18名全員を最低1週間業務から外して、重要な情報の周知等についての再教育を行い、航空法違反で処分することを決めた。羽田空港では管制官を6つのチームに分けて業務を行っている。
なお、本件の発生について、国土交通省内の連絡態勢が十分に機能していなかったことも指摘された。管制を統括する国土交通省管制課が本件を把握したのは午後10時40分頃、事故やインシデントを担当する国土交通省運航課が本件を把握したのは翌30日午前0時過ぎであった。
国土交通省は、本件を重大インシデントに指定した。また、本件発生を受けて、5月2日には国土交通大臣が国土交通省東京空港事務所を査察した。
5月9日、国土交通省は、18名の管制官のうち、本件発生当時、別の滑走路やA滑走路の出発などを担当していて誤指示に関与が少なかった管制官13名について、5月1日から6日間にわたって、本件事例の発生原因の検証作業や事例研究、規定類再確認などの研修と実技試験を行った結果、試験結果も良好であったため、5月10日から業務復帰させることを認めた。
5月13日、国土交通省は、東京空港事務所の次席航空管制官を訓告、同省航空局長と東京空港事務所空港長ら6名を文書による厳重注意、A滑走路への進入と着陸を許可した管制官ら4名を口頭による厳重注意処分としたことを発表した。また、同省が東京空港事務所に対して行った監察について、航空情報の確認体制や共有が不十分であったこと、業務前の打ち合わせで航空情報担当の管制官が、滑走路閉鎖を失念していて確認せず、次席管制官も気付ず、他の管制官ももう少し遅い時間帯であると思い込んでいたことが、本件の原因であるとの中間報告も為された。再発防止策として、情報伝達をダブルチェックする体制整備が必要として、今後、全国の空港に航空情報を管理する責任者を置くことも明らかにされた。
5月16日、国土交通省は誤指示に関与した5名の管制官のうち4名について、11日間の研修と筆記試験、実技試験の結果、5月17日から現場復帰させることを認めた。