2007年8月20日午前10時34分頃、台湾・台北発那覇行き中華航空120便ボーイング737-800(B-18616)が那覇空港に着陸後、駐機場(41番スポット)に駐機した直後に、第2エンジン周辺から出火した。乗員乗客が4箇所ある脱出用シューター全てを展開して緊急脱出を行い、運航乗務員を除いた全員が避難を完了した午前10時35分頃に主翼付近が爆発し、機体は中央部で前後に2つに折れて燃え落ち、機首部及び機体右側を除いてほぼ全焼した。
この事故で運航乗務員2名、客室乗務員6名、乗客157名、計165名のうち乗員2名が軽傷を負い、乗客2名が気分が悪くなり病院に運ばれた。また、爆発前に消火活動を行なっていた整備士1名が爆発に巻き込まれ軽傷を負い、消火活動中の消防士、自衛官ら3名が熱中症などで病院に運ばれた。乗員の国籍は台湾7名、日本1名であった。乗客の国籍は、110名が台湾、23名が日本、8名が中国、16名がその他の国籍であった。乗客のうち89名は台湾からの団体観光客であった。
事故機は日本時間の午前9時23分に台北・桃園空港を出発し、到着予定時刻は午前10時45分のところ、午前10時27分に那覇空港に着陸し、41番スポットには午前10時32分頃到着し停止し、エンジンを止めた。運航は正常に行なわれ、管制塔との交信も通常通りであった。乗客らの証言によると、事故機がスポットに入り、ベルトサインが消え、乗客が手荷物を取り出し始めた際に右側の機外に煙が上がり、こげくさい臭いがして機内が熱くなり、数十秒で煙は炎に変わって両側の窓が炎のオレンジ色に包まれたという。事故機の着陸後点検を行おうとしていた中華航空の整備士1名と業務委託を受けている日本トランスオーシャン航空の整備補助要員1名が火災を目撃し、日本トランスオーシャン航空の整備補助要員が直ちに機内に連絡し、機長にエンジン停止と消火装置の作動、緊急脱出を要請した。これを受けて緊急脱出が行なわれた。
駐機場に入ってきた際に事故機の第2エンジンパイロン後方付近から燃料が漏れているのを同社の整備士が目撃した。このため燃料をエンジンに供給する管や機構に不具合があったものと事故発生当初は見られていた。
事故発生の報を受けて、沖縄県は午前10時35分に県災害警戒本部を設置、国土交通省は午前10時40分に事故対策本部を設置、政府も午前10時43分に首相官邸内の危機管理センターに連絡室を設置した。また警察庁も午前10時43分に警備課長を長とする警備連絡室を設置した。
8月20日夜、国土交通省那覇空港事務所は記者会見を行い、同事務所保安防災課が那覇市消防本部に火災発生の連絡をしていなかったことを明らかにした。機体炎上を目撃した管制官から専用電話で空港消防庁舎に連絡が入った際、保安防災課には職員が不在で、空港内の消防車を運営する外郭団体の財団法人「航空保安協会」の職員が電話を取り、自衛消防隊の消防車3台など計7台を緊急出動させたが、市消防本部への通報を行なわなかった。偶然にも現場から南に約4km離れた地点で非番の地元消防署員が目撃、空港の消防車が出動した1分後の午前10時35分に119番したため、通報の遅れは最小限に留まったが、初期消火の遅れで被害が拡大した恐れもあった。通報から12分後の午前10時47分に市消防本部の消防車33台が到着した。火災は那覇市消防本部の化学消防車による消火活動により午前11時37分に鎮火した。
本件発生により、那覇空港は午前10時35分から午前11時まで閉鎖され、発着便計88便が最大2時間3分の遅れや目的地変更を余儀なくされるなど、約25000人に影響が出た。
国土交通省は本件を航空事故に指定した。
8月23日、航空・鉄道事故事故調査委員会は、右主翼前縁部第2エンジンのすぐ外側にある5番スラットのアーム(スラットトラック)(長さ約1m)の後端に付けられた稼動域終端のストッパーの役割を果たす「ダウンストップ」を固定する長さ数センチのボルトが、何らかの原因で脱落または破断し、アームの収納ボックスであるトラックカン(長さ約22cm)の中に落下して、着陸後にスラットを格納する際にアームに押し出されて、トラックカン底面に隣接する燃料タンクの外壁(アルミ合金製:厚さ2mm)に突き刺さって長さ41mm、幅23mmの水滴形の穴が空いたとみられることを明らかにした。この穴から燃料が漏れ出し、エンジンの高温で気化して発火した可能性が高いことが分かった。これを受けて国土交通省は同日ボーイング737−700型機と800型機を運航する国内航空3社の計23機〔日本航空インターナショナル(5機)、スカイマーク(5機)、エアーニッポン(13機)〕に対し、両主翼の一番内側のスラットのアームのボルトの取り付け状態を確認する旨、耐空性改善通報(TCD)を出した。翌日までの点検が行われが、対象となった全23機に異常は見られなかった。
ボーイング社によると、同型機でこれまでに2件この箇所のナットが外れた例があり、うち1件では燃料漏れが発生しており、2005年12月に航空各社に同箇所のボルトとナットの点検を行なうよう文書(サービスレター)で注意喚起を行なっていたが、サービスレターは強制力が低く、点検は各社の判断に任されていた。この点に関して台湾行政院(内閣)飛航安全委員会は、2006年3月にボーイング社からの文書を中華航空が受け取り、事故機においても点検を行なったと述べた。
8月24日、航空・鉄道事故調査委員会は、右燃料タンクから短時間に200リットルの燃料が漏れ、引火につながったこと、燃料タンクを突き破ったボルトはナットが付いた状態でありボルトの破断ではなかったことなどを公表した。アームのボルト取り付け部の穴がナットよりも大きくなっており、そのまま抜け落ちたと見られる。ボルトは外側から「ワッシャー」、「ダウンストップ」、「スリーブ」、「ストップロケーション」、「ダウンストップ」、「ワッシャー」、「ナット」の順に部品を通す形で取り付けられるが、ナットとの間に挟まっていなければならない部品はそれぞれ離れた場所から発見された。ボルトやナットその他の脱落した部品に金属疲労や摩耗、強い外力が加わった痕跡は見つからなかったことから、整備時にワッシャーを取り付け忘れた可能性が指摘されている。「ダウンストップ」の穴は直径1.04〜1.06cmで、「ナット」の外径は1.06cmであるため、その間に外径1.57cmの「ワッシャー」を取り付け忘れると抜け落ちるおそれがある。航空・鉄道事故調査委員会が8月25日に明らかにしたところでは、中華航空は2007年7月6日の定期点検で問題のボルトの脱着作業を行なっていた。この際に「ワッシャー」が適正に取り付けられず、チェック時にも発見されなかった可能性が高い。
8月26日、アメリカ連邦航空局(FAA)は、世界の航空会社に対して、ボーイング737-600型、700型、800型、900型、計2300機に対して、該当箇所のボルトやナットの取り付け状況の点検を指示する耐空性改善命令(AD)を出した。また、これを受けて国土交通省は同じ26日付で、先のTCDの対象と同じ国内航空3社の計23機に対し、再び耐空性改善通報(TCD)を出し、スラットの取り付け状況の点検を指示した。
なお、このTCDにより、8月29日に点検を行なっていたエアーニッポンのボーイング737-700型1機で左主翼第1スラットのワッシャーが欠落しているのが発見された。この機体は2007年1月に就航したばかりの新造機で、当該箇所の整備は行なっていないことから、ボーイング社の製造ミスとみられる。
事故機は2002年に製造された。