事故詳細

(事故No,20010521ja)

 2001年5月21日午前1時25分(日本時間)頃、関西国際空港発アメリカ領グアム行き全日本空輸173便ボーイング747-400(JA8960)が、グアム島の北北西約240Kmの公海上空約11700mを巡航中、乱気流に遭遇し、機体が上下に激しく揺れた。
 この事故で乗員乗客計300名のうち、女性乗客1名が左足首を骨折する重傷を負ったほか、客室乗務員7名、乗客13名、計20名が頭などに打撲などの軽傷を負った。
 事故機は20日午後11時頃、関西国際空港を離陸し、乱気流遭遇時は巡航中で機内食のサービスは終わっていた。事前に乱気流の情報はなく、乱気流の予兆もなかったため、ベルトサインも出ていなかった。激しい揺れは約3分間にわたって2回ほどで、一部の乗客が座席から投げ出された。事故機は事故の約25分後の午前1時50分頃グアム空港に着陸した。機体に異状は見つからなかった。国土交通省は本件を航空事故に指定した。
 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は2002年5月31日、本件事故調査の最終報告書をまとめた。
 報告書によると、事故機は激しい上昇気流を伴った発達中の積雲の頂点付近を通過、16秒間に約240mも急上昇して激しく揺れさぶられた。軽傷者の多くはシートベルトを外していた乗客で座席から投げ出されたために負傷した。重傷者は、ミュールと呼ばれるかかと部分にストラップが付いていないハイヒール型のサンダルを履いて化粧室の前に立っていた時に乱気流に遭遇し、体が浮き上がって落ちた際に左足首をひねって転倒し、骨折した。重傷者が出た原因として、事故調査委員会は足元が不安定な履物を履いていた点を指摘し、安定した履物であれば事故(航空法等の法規は、死者または重傷者が出た場合を事故と規定)にはならなかった可能性が高かったと推定した。
 事故機の気象レーダーに雲は映っていなかったため、パイロットは発達中の雲に気づかずに飛行していたが、この点について報告書は、気象レーダーの性能の限界やレーダー画面に表示された影が小さすぎるなどの理由で監視が不十分となった可能性などを指摘した。
 なお、報告書は、機内でのシートベルト常時着用の周知徹底を図るとともに乱気流情報の共有を航空関係機関に求める旨の所見を付した。
 乱気流は事前の予測が難しいため、遭遇時に乗客や客室乗務員が負傷する事故がしばしば発生している。運輸省(当時)事故調査委員会は1999年3月、シートベルトの常時着用を運輸大臣に提言しており、これを受けて2000年3月、同省航空局は、ベルトサイン消灯時でも着席の際はシートベルトの着用を乗客に要請するよう航空各社に通達を出していた。


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