ある出会い

 ある日散歩をしていたら、いつのまにか三つ先の駅まで歩いていた。気付くと、歩き疲れてあるビルの前にしゃがみこんでいた。そのビルは、しっかりとした足組みがされていて、どうやら修理をしているようだった。 しゃがみ込む私に、「どうしたんだい?」と警備員のおじさんが話しかけて来てくれた。

 下を向く私に、おじさんは少し間を置いて、「私もこれから休憩に入るよ。温かいお茶でも買ってこようか」と言って、目の前の自動販売機に向かって歩いていった。そして私に小さいペットボトルのお茶を差し出した。だまって受け取ったお茶はちょうどいい温かさだった。

 立ったまま、おじさんは話し始めた。「私にも結婚して子供がいる娘がいるんだが、やっと退院してね。この間娘の家に行ってきたんだよ。そうしたら、孫が娘の薬がたくさん入った袋をズルズル引きずって、「ママ、おくすり」って言ってるんだ。思わず、「そんな事しなくていいんだよ」って言ったんだ。そうしたら、「だって家族だもん」って孫が言うんだよ」

 話し終わるとおじさんは、「そろそろどうだい?」と私に言った。とりあえず私も落ち着いて、お礼を言って最寄りの駅まで歩いた。なんだかいい出会いだな、と思った。

 2012年

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