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ALBUM OF THE YEAR 2022



ALBUM OF THE YEAR 2022
――CDが終わった時代に

1.

『Ants From Up There』 / Black Country, New Road


    And you, like Concorde
    I came, a gentle hill racer
    I was breathless
    Upon every mountain
    Just to look for your light
    ("Concorde")


 これは何だ……? 前作の不穏さはない。展開の予測不能さが不穏に繋がらず……いや、何だこれは? 趣味の悪い陰気なミュージカル、もしくはアトラクション? 架空の寓話の劇伴か? ミドルテンポの"Concorde"では、ある種の安らぎすら感じる。穏やかで、「赦された」ようなムード——。

 ラスト3曲の展開は目を見張るものがある。"The Place Where He Inserted the Blade"のドラマチックなアンサンブル。"Snow Globes"では2本のギターのリフレインが延々と続くなかでの後半の爆発し、前作における不穏の象徴であるサックスが、最後の最後にそのリフレインにもう一度寄り添う。"Basketball Shoes"で押弦と解放弦の同じ音程のギターが重なり、一つのフレーズをハンドベルのようにたくさんの楽器が分かち合い、そしてもう一度ユニゾンし、1曲目のイントロで締めくくられるというのもまた、美しい。

 いくつもの曲で登場する「コンコルド」はつまり、コンコルド効果のことを言っているのだろう。失敗する結果に気付いていても、歩みを止められない。そんなリリックを絞り出すように歌いながら、しかしヴォーカルのアイザック・ウッドはこのアルバムでマイクを置き、バンドを脱退した。それは、前身のバンドがスキャンダルで瓦解し、図らずもフロントマンに仕立て上げられてしまった彼が、自らに与えた「赦し」だったのかもしれない。

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2.

『Blue Rev』 / Alvvays

 ドリームポップとは、つまるところ逃避か、郷愁かに分けられるのではないか。そういえば一昔前のチルウェイヴなんかはただの現実逃避って言われて随分批判されましたね。逃避も絶対に必要だと思うんだけど。まあそれは置いておいて本作は後者、ノスタルジーのほう。でも音自体が古くさいというわけではない。"After The Earthquake"の重くリヴァーブのかかったスネア。コーラスとディストーションのかかったギターで空間は埋められ、ベースはその輪郭(アタック・ノイズ)をひたすら隠して後景に退き白昼夢を妨げない。B面の少し憂鬱な、それこそ「ブルー」な響きはアルバムを弛緩させない。プロデュース・エンジニアを務めたショーン・エヴェレットの手腕も確実にあるだろう。まろやかな音の繭の中、きっとあなたは小さな子供の頃の風景を脳裏に浮かべるが、それは決して後ろ向きな行為ではないのだ。

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3.

『SOS』 / SZA

 この傷を癒すためには23曲という曲数が必要だった。ただただ時間が必要だった。"Blind"のアコギの音色のような、哀しみを包むための優しさ。後半のポップへの接近には少々面食らったが("F2F"は流石に笑ったよね)、でもまぁ、《I wish I were Special》("Special")、《あなたのガールフレンドにはならない、ただあなたと一緒にいる人になりたい》("Notice Me")という切実さが、響く。ダイアナ妃に自らをなぞらえるアートワークや、曲間に幾度も挟まれるモールス信号に表象される彼女の孤立を癒すためには、前作から5年という歳月をかけて、1時間を超える表現を創る必要があったのだ。

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4.

『Dawn FM』 / The Weeknd

 この世とあの世の狭間である煉獄で流れるラジオ、というコンセプト。ところどころに「ぽい」ジングルが挟まる。ジム・キャリーが《聞き終わる頃には、トラウマも、自分の名前さえも忘れているでしょうから、リラックスして聞いてね》なんて無表情なトーンでトークする。やっぱり世代的にはジム・キャリーといえば『マスク』なんだけど、このテンションはどう考えても『トゥルーマン・ショー』。これが煉獄の、「浄化のための苦しみ」なのか?

 しかしOneohtrix Point Neverと組んで作り上げたというこのサウンド、隙がない。全く隙がなく、美しい。しかし、嘘くさい。"Here we go…again"のコーラスでヴォーカルにチャイムがユニゾンするというのもバブル並みに胡散臭い。バブルと言えば、織田哲郎だ。『House Of Balloons』で『Fate/stay night』のセイバー(Cv:川澄綾子)のセリフをサンプリングしたときも驚いたが、終いには織田哲郎とは。"Out of Time"のギターのミュート・カッティングと未練タラタラのリリックは日本で鳴っていても何の不思議もない。という日本人的受容の仕方も大いにしてしまったし、Spotify Wrappedで真っ先に出てくるくらいリピートしまくった私が言うのもなんだけど、死んだ後にこんなラジオ聴かされるのは、絶対嫌ですね。

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5.

『DOKI DOKI』 / サニーデイ・サービス

 "風船讃歌"の瑞々しさ。

 パンク・ロックは死んでしまった。日本の若者たちはもう誰も演らない(最後の萌芽がandymoriであり、明らかなそのフォロワーであるあいみょんには、彼らのフォークの因子しか引き継がれなかったのだろう)。しかし本当に、日本の若者、誰も彼もが歌が上手い。バンドのヴォーカルですら歌が上手すぎてちょっと引くよね。まあ何が言いたいかというと、若くて威勢のいいどこかの輩がコピーして世に出てこないと、そういうのって死んでしまうのだ。だから、本作は別にパンク・ロック・リヴァイバルではない。ただの延命措置に過ぎないのだろう。それでも曽我部恵一は伸びやかな歌声を完全に取り戻し(もうソカバンのようにがなり散らす必要はとっくになくなったのだ)、加入当初からフィットしていた大工原幹雄のドラムスは初めからそうであったかのような馴染み方をしている。だから確かに瑞々しくはある。が、新しくはない。"風船讃歌"の次の曲・"幻の光"が強烈な死の匂いを放っているのは、その証なのだろう。でも、これを聴いた若くて威勢のいいどこかの輩が、またギターを手に取ってどこかのリハスタで掻き鳴らしてくれたら……っていうのはもう中年の甘い妄想なんだろうね。

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6.

『MOTOMAMI』 / ROSALÍA

 サオーコパッピーサオーコ。 ノーマイホルヴィダ。 パティー、ナキー、チキンテリヤキ。トゥガタクェレマキ、ミガタンカワサキ。 ソーウーウーソーソーグッ。ヨーテーキュロセーヘンタイ。 デデリアクェナシー。 モトマミ、モトマミモトマミ。モトマミ、モトマミモトマミ。 キピキューーーー、マニトゥキピキューートゥ。 ワラミ、ワラミ、オントラヴィ、オントラヴィ、マンダミ、マンダミ、アンハレス、アンハレス。

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7.

『Mr. Morale & The Big Steppers』 / Kendrick Lamar

 成り上がりのタップダンサーと、ミスタ・モラル。これは救世主・ケンドリック・ラマーが、その舞台から降りる物語。

《俺は疲れ切った》("Silent Hill")

《おれは世界を救わない/おれは自分で精一杯/おれはおれは選んだ、悪いな》("Mirror")

《俺にみんなを喜ばすことができない》("Crown")

《ケンドリックは君の救世主ではない/俺を喜ばせてくれるか?》("Savior")

 まあ、結局は物語なんですかね。口でどれだけロッキング・オンを小馬鹿にしたって、結局人生を切り売りしたナラティヴのダイナミズムに絡め取られてしまう。《ママ、おれはもうシラフだよ》という紛れもない懺悔に、感情移入しないやつなんているのか? ナラティヴ、ストーリー、コンテキスト、結局その強靭さからは誰も逃れられないのか?

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8.

『物語のように』 / 坂本慎太郎

 子供ってなんであんなに紙芝居が好きなのだろうか。バック・コーラスというにはあまりに剥き出しで無加工な女声の「うーいういう あーあー」を聴きながら、思う。能天気なサーフ・ロックに乗せてお届けされる《僕には時間がない/君には時間がある》というリリックを耳にするに、ま、普通に考えれば、自分より若い世代に向けて歌われているのだろう。とはいえ、いつものようにヒーリング・ミュージックの皮を被ってはいるが、流石に諦念が滲む。それはひょっとして、「老い」か? "時間がない"のアウトロにおけるギター・ソロのサウンドに似つかわしくないささくれ感。"スター"の楽器の響きを全て吸いつくすようなプロダクションと《何度も聞いた話 またしてる》というライン。"悲しい用事"なんて、曲名そのものがつまり……そういうことでしょ? 《埋めようのない隙間を見た》という諦めに、彼は抗っている……のか? それでも紙芝居みたいに次のページをめくって新たな光景が広がることを、希望を捨てていない……のか? 今年の原稿なんか疑問符ばっかりだな。

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9.

『After Hours』 / (((さらうんど)))

 10年前の僕らは胸を痛めて……はいないが、(((さらうんど)))の新譜が出る度ウキウキしてタワーレコードまで出掛けた。あれから10年……いろいろあった。僕はもうCDは(ほぼ)買ってはいないし、本作もSpotifyでチェックした。いろいろなことが変わった。大原大次郎のイラストレーションに表象されるような、あのカラフルな原色が煌く夏は、もうここにはない。イルリメこと鴨田潤は、ラップをしないどころか、もはや日本語まで手放している。毎日毎日、同じ、同じ、同じ太陽が照りつける。ミニマルなトラックと、温度の低いシーケンスと、虚ろな英語で映し出される、常識外れに暑くて眩しくて、それでいて灰色で真っ暗な、2022年の、夏。

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10.

『ぼちぼち銀河』 / 柴田聡子

 冬野梅子の漫画・『まじめな会社員』を読んでいると、かなり重要なシーンで唐突に「柴田聡子」の名前が出てくる。急に知っている音楽がかかって、スマホの中でやきもきしているキャラクターたちに一気に現実的な輪郭が与えられるような、今まで経験したことのない不思議なハイライトだった。

 大名曲・"雑感"をいきなり2曲目に持ってくることから覗く、自信。"南国調絨毯"とか地声が高いのにやたら低い音域で歌おうとする、彼女特有のチャーム。タイトルトラックがきっちり後半のハイライトとして作用しているのも、いい。うーん、いいアルバム。きっとこのアルバムも、どっかの街の小洒落たクラブでなんとなくモテる男がDJでかけたりするのだろう。それを聴いた女の子が、古傷を抉られるみたいに失恋を思い出したりするのだろう。はーあ。僕もそういう人生が良かったです。いや、やっぱいいです。

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11.

『Long Voyage』 / 七尾旅人

 2曲目の"crossing"で、穏やかなオルガンと伸びやかな唄声にのせて「ダイヤモンド・プリンセス」という固有名詞が登場した瞬間、いま、ここ、私たちの生きる2022年と地続きの世界なのだということにハッとさせられ、愕然とさせられる。つまり、これがコロナ禍についてのアルバムだということは早々に明らかにされる。「船」というモチーフを何度も何度も使って、非日常が日常になってしまった生活が描かれる。ということは、言葉には相応の重さが伴ってくる。だが、ジャズの不協和音、隣の音とぶつかるその様はどこか優しげだし、"Wonderful Life"のポエトリー・リーディングが孕むシリアスを、シンプルなキーボードのリフレインをループするトラックは受け流している。このテーマの2枚組を聴かせるだけのユーモアがサウンドにはある。ハイライトは、8分もの時間をかけて、コロンブスまで遡った侵略の歴史のナラティブを、ガタガタの木造りジェットコースターじみた予測不可能サウンドにのせて展開する"ソウルフードを君と"。

しかし、素晴らしいサウンドが緩和してくれるとはいっても、こっちのメンタル次第ではなかなか聴いていて辛くなる。これを落ち着いて聴く時間を捻出できない僕のほうに問題があるんだけど。でも、勘弁してほしい。僕にだって《おうちでまってるbaby》がいる。なるべく早くにお金稼いで、そこへ帰るよ。

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12.

『Thirst』 / DYGL

 のっけから重い。前半で既にフルアルバムくらいの重量があるんじゃないか。バンドというフォーマットの軽やかさは皆無。5分を超える曲もちらほらトラック・リストに並ぶ。これはもうミニマル・ミュージックに括っていいんじゃないだろうか。相当なセッションを積み上げたことは想像に難くない。初期衝動とは距離を置いたクリアな録音も素晴らしい(セカンド以降は、ずっとこの音像を追い求めていたのだろう。迫力に欠けると取られかねないが、この明瞭さこそがダイナミズムだ)。美しい歪み。"dazzling"とかもっと汚い音で録っても良さそうなものなのに、敢えてそうはしなかった。今年でいえばFontaines D.C.あたりと共振するサウンドスケープ。このアルバムのタイトルに「渇き」とは、イカす。

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13.

『Queendom』 / Awich

 ケンドリック・ラマーにとってのコンプトン、Bad Hopにとっての川崎、そして彼女にとっては沖縄。冒頭・"Queendom"のストーリーテリングなんて、これは日本の話なのか? 誰もが死んだ夫と家に残した娘に思いを馳せるに違いない。もちろん話自体が劇的なのはあるが、自らのストーリーに引き込む、いや、引き摺り込むその腕力をカリスマと呼ぶのだろう。

 ただ、のっけのシリアスに圧倒されるが、それだけでは終わらない。飽くまで主題はクイーンダム。自分が如何に「いいオンナ」であるかを並べ立てる"Heartbreak Erotica"や、《腹ばっか立てずに立てろよChimpo》というパンチライン(そう、これこそがパンチラインだ!)をお見舞いする"口に出して"など、痛快極まりないのに全く嫌らしさがないのが、また、ねえ? 軽快なビートに乗って、大手を振って道のど真ん中を闊歩する彼女の姿がずっと想起されっぱなしである。やっちまいな!

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14.

『Wet Leg』 / Wet Leg

 ストロークスの『Is This It』から20余年。そりゃそうですよね、トレンドだって1周も2周もします。ロックンロール・リヴァイヴァルは遠くなりにけり……。でも録音は全然ローファイじゃない。去年弊サイトの年間ベストに挙げまくったblack midi、Squid、Goat Girlらを手掛けるダン・キャリーがここでも良い仕事をしています(そういう意味では2021年っぽさを感じるけども、世界的にめっちゃ批評家にもウケましたね)。

まあそういう細かいことはどうでもいいし、《I went to school and I got the big D》("Chaise Longue")なんて訳すのもバカバカしくなるくらいのリリックで1曲突っ切る勢いよ。もうそれだけそれだけ。「それだけなのが最高なんだよね」とか言うのすらめんどくさくなるこの感じ。《Excuse me? (What)》って、こっちのセリフだよ!

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15.

『World Wide Pop』 / Superorganism

 サイ・ファイでハイ・ファイな陽性のヴァイブス。ブラウン管のアニメーションに合わせて少年がおもちゃのロケットを飛ばすような、イノセンス。それでもオロノのヴォーカルはやはり陰を孕んでいる。「いくらイケてる音楽を聴いたって、お前の醜悪さはこれっぽっちも免罪されないから」って倍音豊かなアルトで耳打ちされてる気分。きゃー。ヘッドフォン右カップから流れる"Teenager"のつぶれに潰れたディストーション・ギター浴びながら、阿呆みたいに踊れよ、クソ野郎。

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16.

『Grotto』 / Wilma Vritra

 ラップには抑揚はない。起伏があるのはトラック。といっても派手なビートではなく、ミニマル。歌うのは"One Under"、"Overcast"のストリングスや、"Clean Me Clean"の木管、シンセベースだ。あ、"Wookey Hole"も木管。ラップはむしろ後景に退いている。BGMならぬ、BGR−−バック・グラウンド・ラップとでも言おうか。仄暗い洞窟(Grotto)に不似合いな真っ赤な汽車が、素っ頓狂な顔してガタガタ進んでいくように、その音と声の温度差からくる違和感は我々の聴覚を掴んで離さない。出口は見えないが、不思議と居心地は悪くない。

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17.

『Being Funny In A Foreign Language』 / The 1975

 やはり短いアルバムは良い。1stシングル・"Part Of The Band"で否応なく高められたフォークへの期待は軽々しく裏切られて、馴染みのディスコチューンが続く。が、43分、11曲。理想的な長さだ。ダレずに、飽きずに聴いていられる。だが、私はマシュー・ヒーリーがポッドキャストで何を喋ったのかは(『フロントロウ』の記事に書かれている以上のことは)知らない。表現者自身とその作品は分けて考えるべきだ、という言説には、完全に同調することはできない(同一視も決してできないが、どういう考えの人が作った表現なのか、ということは、その文脈は、やはり無視できない)。ただ……やはり短いアルバムは良い。前作より余程良いアルバムだ。だが、私はマシュー・ヒーリーがポッドキャストで何を喋ったのかは(『フロントロウ』の記事に書かれている以上のことは)知らない。表現者自身とその作品は分けて考えるべきだ……。

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18.

『Beatopia』 / beabadoobee

 俺たちのインディー、俺たちのインディー・ポップ! 聴いてて卒倒しそうになるあの懐かしいプロダクション! 前半の"10:36"では明確にアヴリル・ラヴィーンみを感じる("Talk"ではズバリ《complicated》とまで言っちゃっている!)。"Sunny Day"から似たようなコードとテイストで始まる"See you Soon"で、しかしビートははっきりと変えるというのも洒落ている。リムショットが冴えるマイナー歌謡・"the perfect pair"も小洒落ている。俺たちのOasis・"Married With Children"すら彷彿とさせる(ちょっとビートは違うけど)クロージングの"You’re here that’s the thing"も、すっきりとした読後感を演出してくれていて、ニクい。俺たちのインディー、俺たちのインディー・ポップ!

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19.

『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』 / Big Thief

 フォークってそんなに盛り上がったのだろうか? ele-kingが「フォークの逆襲」なんてアオリを打つくらいに。

 確かに、工夫が感じられる2枚組だ。カントリー調の弦が左チャンネルのカエルの鳴き声みたいな謎SEに汚される"Spud Infinity"にまずびっくり。4曲目・"Certainty"が始まった頃には、これは60年代ロックンロールのリヴァイバルなのか?と思わされてしまう。タイトル・トラックにはスフィアン・スティーブンス並みの迫力を感じるし、その5曲目と6曲目の間、あるいは10曲目と11曲目の間には、明確に盤を裏返す無音のシークタイムが設けられている。うーん、凝らされる工夫。でもその次の無音が15曲目と16曲目の間ではなくて、14曲目と15曲目の間に来るのは何故だろう? LPの2枚目裏返すタイミングじゃないよね。まあ誰も気にしてないかそんなこと。

 でも、本作が出た後にThe 1975が"Part Of The Band"をシングル・カットした時は確かに興奮した。「フォークの逆襲」だ、と。でも、その後があまり続かなかった……のだろうか? うーん……やはり短いアルバムは良い。2枚組は難しい。サカナクションが失敗したのだって、ある程度仕方ないことなのかもしれない。何の話?

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20. 『BADモード』 / 宇多田ヒカル

 良いアルバムではない。既発曲を3曲の新曲で挟み込むハンバーガーみたいな構成(オーディエンス舐めてるのか?)。"BADモード"、"気分じゃないの(Not In The Mood)"、"Somwhere Near Marseilles ーマルセイユ辺り"というFloating Pointsプロデュースの3曲だけでEPにしたほうがずっと良かったのでは?という気持ちがあるのは私だけじゃないだろう。しかし、だがしかし……。曲が最高なので聴けてしまう。"BADモード"の《Hope I don’t fuck it up again》は何度聴いても涙をこらえる羽目になってしまうし、"気分じゃないの"のロエベの財布のくだりは何度聴いても寒気がする。とはいえ、ね。流石に"Find Love"辺りで集中が切れちゃうんですよ、いくら良い曲が揃ってるとはいっても。アルバムとしての見どころは"気分じゃないの"のアウトロがプツンと切れて"誰にも言わない"のシンセがインするところくらいじゃないですか。宇多田ヒカルがアルバムというフォーマットにそんなにこだわり持ってないことは分かるけど、せめて曲数もうちょっと絞ってほしかったな……。

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 もうK-POPしか愛せない!っていうくらい最近はNewJeansしか聴いていない。ついに韓国ドラマ(恋愛モノ)まで観初めてしまったし、まじめにハングル勉強してみようかな……。

 とまあ、ポップ・ミュージックの世界も完全にグローバル化しましたね、ということ(?)。ROSALÍAの活躍は凄まじかったし(あのWeekndが普通にスペイン語を歌って客演するのだ!)、NewJeansなんかもうほんとにどこまで行くの?って感じ。ああ何でサマソニ大阪来ないのか。いやまあ東京に来てくれるだけもありがたいんだよね、という文化後進国的卑屈な根性もいつの間にか染み着いちゃった。

 とはいえ、完全に置いていかれたかと思いきや、藤井風は何故かTikTokでバズってるし、アニメは相変わらず強くて米津玄師は良い仕事するし、まさかGeniusのTop 10に日本人が並ぶ日が来るとは思いませんでした。でももうそういう、日本人がどうのとか考えている時点でもう遅すぎるってことだ。周回遅れだってことなんでしょう。

 まだ着いていけるし、着いていきたいとも思うけど、ひょっとして近いうちに俺は振り落とされてしまうのでは?っていうくらいのスピードを感じた1年だった。まあ、いろいろ自分で否定はしつつも、もう若くないってことなんだろう。最近、とにかく肩が痛いんだよね。NewJeans聴きながら整体に通います。

2023/3/31


SONG OF THE YEAR 2022

1. "BADモード" / 宇多田ヒカル
2. "気分じゃないの (Not in The Mood)" / 宇多田ヒカル
3. "Ditto" / NewJeans
4. "ソウルフードを君と" / 七尾旅人
5. "The Heart Part 5" / Kendrick Lamer
6. "Part Of The Band" / The 1975
7. "変わる消える" / Cornelius feat. mei ehara
8. "Twice" / Charlie XCX
9. "Attention" / NewJeans
10. "果てしない二人" / aiko
11. "Lost Track" / Haim
12. "2am" / Foals
13. "タイミングでしょ" / STUTS feat. Awich
14. "19℃" / 君島大空
15. "Break My Soul" / Beyoncé
16. "Mirage Op.3 (Collective ver.)" / Mirage Collective
17. "KICK BACK" / 米津玄師
18. "喜劇" / 星野源
19. "光るとき" / 羊文学
20. "アイラブユー" / back number

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