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ALBUM OF THE YEAR 2019
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ALBUM OF THE YEAR 2019 ――CDが終わる時代に |
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1. 『Gallipoli』 / Beirut
We never lived here at all
これは、旅についてのアルバムだ。それも電車で2、3時間かけて行くような近場じゃなく、海外とかね。そういう見たことも聞いたこともないようなところへ赴くと、人生観が変わるとかよく言うじゃないですか、インドで自分探しみたいな。結局のところそれは、「ここ」には(まだ)あるけれど、普段暮らす「そこ」にはない(あるいは失われてしまった)ものに、気付かされるからなのだと思う。旅が、残っていくものと変わっていくものを浮き上がらせることにより、私たちは否応なく自身の存在と生活を客観視することを迫られる。
* * * * * * * * * * 2. 『ANGELS』 / THE NOVEMBERS
折衷。それも高度で限りなく雑多な。やはり目(耳)を惹くのは、(シングルのアートワークからも明らかな)Horrors直系のゴスと、初期L'Arc〜en〜Cielをはじめとする所謂ヴィジュアル系の要素。さらに、当たり前のようにリズム・トラックへ引用されるトラップにも耳を奪われるし、syrup16gテイストのコーラスばりばりかけたベースラインが顔を覗かせるとやはりドキッとしてしまうし、ミスチルが唄っても違和感のないような"Everything"のキャッチーさと叙情性はもう完全にやられてしまったし、エモもスクリーモもエレクトロニカも混ざってるし……。「全ての音楽は模倣から始まる」と、どっかのバンドの眼鏡のフロントマンがノエル・ギャラガーを引き合いに出して語っていたが、その参照点の数が誰にも真似できなくなったとき、人はそれを「オリジナル」と呼ぶようになるのだろう。決して順風満帆ではなかったミュージック・ラヴァーたちが、真摯に積み重ねてきた時間の結晶。傑作だ。
* * * * * * * * * * 3. 『cherish』 / KIRINJI
ここが日本語ポップスのエッジだ。切り開かれた極北だ。年号と共に「J-POP」に別れを告げるかのように、多彩なキャリアを積み上げてきた5人組は、10年代の世界中を席巻したアトランタ発のトラップ・ミュージックに対する完璧な回答を用意してくれた。洗練されすぎて人も斬れそうな"「あの娘は誰?」とか言わせたい"を皮切りに、弓木英梨乃の声が可愛すぎてマジで殺されそうな"killer tune kills me"、ギターのインストに無理やり歌詞を詰め込む狂気じみた"善人の反省"、爆笑必至の"Pizza VS Hamburger"、別の意味で狂気じみたラヴ・ソング・"隣で寝てる人"などなど、ヤバいんですよどれも。譜割りが。私ならこれを、『Point』と『空洞です』の間に並べる。もうこれを聴いたら元には戻れない。我々がクソかったるい日常業務を正気でやり過ごすために脳内BGMにすべきは、Mr.Childrenの"彩り"でも、小沢健二の"薫る(労働と学業)"でもない。雑務雑務、雑務! エンターテイメント! あと完全に蛇足だけどMVの唐田えりかは最高! - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 4. 『MAGDALENE』 / FKA twigs
思っていたより「歌」に寄ったなという印象がある。それも——祈りの歌だ。
* * * * * * * * * * 5. 『STORY』 / never young beach
すかすか。それは音数の少なさというよりは、とりわけスタッカートを多用する巽啓伍のベースに起因するように思える。昨今のトレンドであるかなり重心の低い、それでいて丸っこい存在感のあるボトムが、しかしそこかしこで抜け落ちる。つまり、不在が強調されている。だから、頻繁に女声コーラスが重ねられようと、阿南智史のギターが洒落たオブリガードを添えようと、立ち現われる景色はモノクロなのだ。ライヴでは近所の悪ガキみたいにはしゃぐ安部勇磨のヴォーカルは、低音と翳りが強調されているのだ。クロージングでメンバー紹介をかますノリは、流石に青くさくてちょっとキツいんだけど、そのバカさ加減も含めて愛しいと思える。喪失をテーマにした作品は、ある種日本のロック・バンドの十八番だが、からからと笑い飛ばそうとする彼らのスタンスは、あまりお目にかかれるものではない。でも、くるりの"ハイウェイ"を思わせる"いつも雨"は出色の出来で、やっぱり泣いちゃうんだけど。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 6. 『Not Waving, But Drowning』 / Loyle Carner
決してパニックには陥らないし、ヒステリックに喚いたりしない。ハイにはならない。徹底して冷静だ。エレクトリック・ピアノは軽やかなパターンをリフレインするし、メジャー・キーだって多用される。客演に迎えたジョルジャ・スミスに通底するようなループ主体の、あけすけに言ってしまえばチープなトラックは、クールというよりドライな印象を残す(アンダーソン・パークとは真逆だ)。しかし、タイトルどおり、これはSOSなのだ。時折エレピにかけられる膜を通したような、遠くで聞こえるようなエフェクトが、そのムードを演出している。水中。大丈夫じゃないんだ。もう、息もできないんだ。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 7. 『LEGACY! LEGACY!』 / Jamila Woods
エモーショナルだ。エモーショナルなのだが、ヴォーカリゼーションは全くエモーショナルではない。抑揚がない。声を全く荒げない。つまりは、エモーショナルな表現を最も手っ取り早く表現できるダイナミクスがほぼ使われていない。音量は常に一定だ。歌唱そのものは至ってクールなのだ。それなのに、巷で「エモい……!」とハッシュタグ混じりにシェアされる楽曲よりも、余程聴いていてエモーショナルだと感じるのは、ソング自体がエモーショナルだからだ。印象的なリフレインを軸に組み立てられるコーラスと、当たり前のように仕込まれる32分のバスドラ(多分人力!)——ジャミーラ・ウッズは高低差のあるメロディラインとシビアなリズムを完璧に乗りこなす。さらには所謂「泣きのギター・ソロ」に該当するパートでも、演奏がきちんと抑制される徹底のされよう。聞き手の感情を揺さぶるために、必ずしも演者はエモーショナルになる必要はないのだ。……さて、エモーショナルって何回言ったでしょう。7回です。多分。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 8. 『Flamagra』 / Flying Lotus
初っ端の"Heroes"から超サイヤ人のあのSEに笑ってしまう。が、タイトルや、かなりイカついジャケ写や、悟空の周りを漂うあのシュワシュワに象徴される「炎」のイメージからは、楽曲はだいぶ離れている。メロウなのだ。お馴染みのサンダーキャットに加えアンダーソン・パークからソランジュまで数多のフィーチャリング・ゲストを招き、尺は1時間をゆうに超えていて、相変わらず曲数は多い(27曲!)が、その手触りは一貫している。火が燃えるさまに恐怖することもあれば、安堵することもある。そのアンビヴァレンスをテーマに据えることで、この長大にして雑多を極めるアルバムに統一感が添えられているのだ。穏やかなまどろみから狂乱へと展開するベッドルーム・ファンクネス・"Takashi"や、哀愁たっぷりの"FF4"など、謎の親日感も相変わらず健在。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 9. 『Ode to Joy』 / Wilco
幾度も幾度も零される、諦念のメランコリー。
リリックにはリフレインが多用される。展開の乏しい、ミニマルなパターンの中で、自らに言い聞かせるように、あるいは呪詛のように、何度も、何度も何度も繰り返される《You never change》——。
* * * * * * * * * * 10. 『Family』 / BBHF
"花のように"の一音目、パーカッションの音色が何よりも雄弁だ。ただのリムショットじゃないよね? 何叩いてるんだろあれ。キレの良いアコギと絡むのがまた卒倒モノで……とまぁ、コンマ数秒で血が沸くようなワクワクが押し寄せるわけです。『Mirror Mirror』はチャレンジングなミニアルバムだったけれど、やはり肉体性のある音作りのほうが、このバンドは映える。雄大なアメリカーナにBombay Bicycle Club譲りのミニマル・ビートを掛け合わせる柔軟さは、やはり北海道という出自所以なのか。安直すぎ? まぁとにかく、打ち込みのフィールを逆に生音で再現するという試みによって、Galileo Galileiとはまた違うフレッシュネスを獲得している。天井知らずに歌が上手くなり続ける尾崎雄貴には軽い恐怖すら覚えるが、このまま《屈折して反射を繰り返していく》のだろう。《そのまま踊り続けて/蛇のように》! - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 11. 『U.F.O.F.』 / Big Thief
絹糸のようにかぼそく繊細なアコースティックとウィスパーが、唐突なスクリームでボロボロに歪む瞬間なんて、誰だって好きでしょ? 精密に積み上げたものをぐしゃぐしゃに壊す瞬間に、気持ちよさを感じてしまう人達なんだろう。ジョニー・グリーンウッドが"Creep"で「ガガッ!」ってやるときみたいなね。1曲目にアレをやられたせいで、次はこの美しい音像がいつ台無しにされるのだろうというスリルがずっと続く。たとえば"UFOF"や"Open Desert"で、ライトとレフトにパンされたギターのアルペジオが、あるいはでコーラスが、不意にユニゾンするときの僅かなピッチのずれ。その違和が、「何か悪いことが起きる予感」を掻き立てる。しかし、二度目の瞬間は、プチッというノイズとともに曲が無理矢理終わらせられる——という形で(1回目以上に)唐突に訪れる("Jenni")。その後に残るのは、ただ穏やかな歪み。ああ、美しい。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 12. 『Piercing』 / 小袋成彬
カニエ・ウェストがゴスペルを「今」の音にアップデイトすることを試みたように、小袋成彬は鳴らそうとしている。何を? 日本には、たとえばキリストのような絶対的な信仰はない。では、何を「寄る辺」とすべきなのか? その問いに対して形を与えようとしている。耳たぶに自らピアス穴を開ける——その傷口と流れる血を確かめて、それでも《話をしよう》と何度も希求する。コミュニケーションとは痛みなのだと、膿み続けていくものだと理解してなお、他人と関わることをやめない。やめられない。
* * * * * * * * * * 13. 『Andless』 / Daichi Yamamoto
びろうどのようなエフェクトをかけられたギターが、瞬く星のような煌めきを描き出す一方、時折差し込まれる子供の歌声やSiriの音声が、地続きなのだと仄めかす。何と? そう、私たち一人ひとりの人生と。《ライフ・イズ・ライク・ア・ムービー》。日常に慈しみの眼差しを向け、数多の韻を踏みつつ数多の些細な場面を掬い上げる。チキチキと鳴る打ち込みのスネアでどれだけビートを刻もうとも、ライムは優しく私たちに寄り添いおおらかに包み込む、赦す。《バイトに行く前彼女に会いに行きたい》とか、本当にありふれてるけれど、どこまでも真剣で切実な感情を拾い上げるそのスタンスは、ジャンルは違えどシャムキャッツを思わせる。中でも、箇条書きのように心象風景がポツリポツリと綴られる"SHE II"は、2019屈指のラヴソングであり、最もロマンティックなリリックだ。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 14. 『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』 / Billie Eilish
死にたがりティーンネイジャーのベッドルーム・ミュージックにカテゴライズするには、些か「明るい」。そう、アートワークのベッドルームには、スポットライトが当たっているのだ(白目は正直よく分かんないけど)。ヘヴィーでエッジーだが、キャッチーなのだ。部屋に閉じこもっているのは、外が怖いからじゃなく(過去はどうだか知らないが)、主体的な理由がある。"Bad Guy"の今後100年語り継がれるであろうベースラインにはもはや特許あげたいし、"8"のウクレレにまでカット・アンド・ペーストを施す仕事の細かさには頭が下がる思いだが、踊り疲れたようにアコースティックなバラードに収束する後半にこそキャラクターが垣間見える。ウェア・ドゥ・ウィ・ゴー? 別に、外に出る必要はない。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 15. 『Ventura』 / Anderson Paak
徹底的に快楽中枢を刺激すること、それに心血と金が注ぎ込まれていることが一聴してわかる。いやこのご時世にこんだけアナログ感出します普通? え、まさかのAOR推しですか今だって2019年ですよ?ってな戸惑いもすぐに雲散霧消。だって、クオリティが、すごい。"Tints"は腐るほど聴いたが『Oxnard』にはノれなかった、っていう私のような人間の耳もあっさりと奪う、暴力的なほど単純でシンプルなクオリティの底上げ。2曲目の"Make It Better"の時点でもうご飯3杯いけるもん。で、ひたすら気持ち良くなったところで、トドメの"King James"。はい、優勝。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 16. 『High Planet Cruise』 / HAPPY
サイケデリック満開。オルガンと重ねたコーラスで和声を構築していく導入の"In nowhere..."からそのスタイルは顕著だ。ベースは決して短く音を切らず、ある種だらしなく伸ばされ続ける。ドリーミー、ひたすらにドリーミーだ。ただ、歌詞のそこかしこにステレオタイプじみたディストピア思想が見受けられる一方、サウンドと相性が良いはずのセカイ系が全くといっていいほど顔を出さず、一時期のチルウェイヴの流行がはるか遠いものになったんだなという感慨がある。もう、誰も現実逃避なんて言っていられなくなってしまった。"50 Century Song"は素晴らしいアンセムだが、そこで描かれる風景に我々が辿りつくまでに、おそらくあと3000年もかからないのだろう。そりゃあ新海誠だって現実を描くわけだ。いやー、厳しいね。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 17. 『Down the Valley』 / NOT WONK
うわー、まんま"Airbag"じゃん、かと思えば後半アメリカンロックになってたり("Shattered")。セブンス推しのジャズかぶれかと思いきや、アジカンばりのオクターブ奏法が顔を覗かせたり("Subtle Flicker")。スリーピースのシンプルな構成でありながら、それを感じさせない楽曲の幅、展開。もう、1曲でどんだけ展開すんねん。そしてあの日本人離れしたキーの高い、でもカラッとした湿度の低い声。めちゃめちゃいいね。去年まで「あーもうロック・バンド死んだわ」とか思ってたけど、こいつらとStarcrawlerのおかげで思い直しました。余談だけど、ほんとこいつらといいBBHFといい、北海道のシーン凄すぎじゃない? サカナクションとかMonobrightが頑張ってた頃から1週回って、なんかすごい波来てない? - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 18. 『The Big Day』 / Chance The Rapper
どれだけサブベースが鼓膜を揺らそうとも、アートワークと77分という収録時間が示すとおり、これはCD時代のアルバムへのオマージュであり、懐古主義の産物だ。チャンスにしてはらしくないといえば、らしくない。だって別に新しくないんだもの。しかし、この業界最盛期を思わせる音の華やかさと、それでも拭いきれない翳に、惹きつけられないわけがない。繰り返される《We can be, eternal》というパンチラインにはやっぱり胸を打たれるし、タイトルトラックの笑っちゃうくらい古めかしいタム回しのような愛おしいフックには進んで釣られにいってしまう。全然メディアには評価されなかったみたいだけど、大丈夫。こういう丁寧な仕事には、いつかまた必ず光が当たるから。 - - - - - - - - - -
* * * * * * * * * * 19. 『けものたちの名前』 / ROTH BART BARON
いささかヒロイックでトラジェディックだが、とても痛切な祈りだ。《もしもここを生き残れたら》("けもののなまえ")という直裁的なものから、《君の 髪の毛が 肌が 指先が/焔を 纏って 生まれ変わってゆくよ》("焔")という示唆的なものまで、彼らの目には、常に死がチラついている。それでも楽曲を支えるキックは、未だ、脈を打つように優しく、穏やかなテンポを刻んでいる。が、それが早鐘のようなリズムに変わるとき——つまりは絶望に対峙したとき、果たして僕らは正気でいられるのだろうか。
ß * * * * * * * * * *20. 『THE ANYMAL』 / Suchmos
こうも潔くスタジアム・ロックを捨てられるのか。今まで築いてきたポジションをKing Gnuにあっさり明け渡すかのように、前作までとは一線を画す60年代サイケデリック風のジャム・セッションがひたすら続く。ヴァース・コーラスの構成から出来るだけ遠退くような展開に次ぐ展開の中で、YONCEはポール・マッカートニーばりにシャウトするし、アコースティック・ギターのマイナー・コードの差し込み方なんて、『深海』期のMr.Childrenのようだ(つまり、プログレ的なアプローチだ)。
* * * * * * * * * * マジで今年は髭男の年だった。 忘れもしない、"宿命"がテレビから流れてきた瞬間。ついに、ついに日本でもトラップがチャートをかっさらっていった!と大興奮しました。LDH界隈が腐心し、ジャニーズは目を背け続け(キャラクター的に仕方がないけど)、星野源ですら成し得なかったトラップのローカライズが、遂に果たされたのだと。まぁ、それをやったのがバンドというのがまた日本らしいんですけど。 "Pretender"がラジオやストリーミングで流れまくったことで、やっと日本のポップ・ミュージックの土台も一段上がったんだなと肌で感じることができました。グラミーの効果もあって、ビリー・アイリッシュがバンバン地上波でかかったりね。ディケイドの終わりにやっと間に合った!っていう感じ。嬉しい。 一方で、トラップという形式自体は、流石にもうやり尽くされてきたのかなという印象です。ポップス、ロック、ヒップホップ、R&Bと一通りのものに取り入れられたんじゃないでしょうか。海外は言わずもがな、国内でもキリンジやノーベンバーズ、小袋くんをはじめとして、かなり「消化された」という手触りの良質な作品が届けられました。 こうなってくると、今年が俄然楽しみになってくるってわけで。やっとスタンバイ・オーケーってな具合に仕上がったんですから、これから芽吹いてくる才能たちに期待せずにはおれません。そう、出掛けなくても音楽は聴ける。そうです。皆さん、楽しみましょう。 2020/3/27 |
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SONG OF THE YEAR 2019
1. "Everything" / THE NOVEMBERS
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