仲卸が小売りをする件について


この文章は、「お魚情報館の掲示板」で質問された「仲卸が小売りをする件についてどう思うか」について、おさかなML(fishml)で答えたものです。(一部修正)  1998年11月12日
「仲卸が小売りをすることについて、どう思われますか」
この設問についての答えとしては、「現状では、やむを得ない。」と思っています。

なんでそうなのと言われると答えにくいのですが、あえて何でかというと・・・
大きくは、「市場がどうあるべきなのか」という事に関わってくると思うのですが。そんな話になると、私の手には負えません。
したがって、現状からの出発をしてみます。それも、京都の現状からです。

現在、京都の仲卸さんは、3桁台、あります。(生魚・塩干含む→京都の特殊性として、塩干の仲卸さんが多い。)
この不況の中で、経営が安定しているところは、数えるほどしか無いようです。
この間、ごく最近営業停止した**水産をはじめとして、半年に1店程度が店を閉めています。(理由はさまざまですが・・・)

このような状態になった理由は、大きくは3点あると思います。

1,量販店の進出と町の商店街の崩壊(魚小売商の減少)
2,不況の進行
3,市場と仲卸自身の体質改善の遅れ

  1. の点について言えば、京都は蜷川革新府政時代に、地域社会と地元の商店街を守るために大型店の進出を抑えてきました。それが、大店法の改訂以来、洪水のように大型中型の量販店が進出してきました。
    こうした量販店の進出は、地元の中小スーパー・小売り市場・商店街を苦境に追い込みました。もちろん、それぞれに工夫を凝らして生き残りを図っていますが、残念ながら「資本力に勝てない」という現状にあると思います。     このところ、ローカルスーパーや小売り市場の撤退や魚小売商の廃業が目立っています。
    進出してきた量販店のほとんどが京都府外の資本であり、魚の仕入れの大部分を大阪など京都以外の市場等から仕入れているということです。当然、このことは京都市場の扱い高の減少に結びつきます。
    つまり、いっぽうで、小売店への売り上げが減り、かわりに進出してきた量販店も他府県市場に取られる、いわば2重のパンチとなっています。また、京都市場の特殊性として、滋賀県や福井方面への出荷(転送)という機能も大きかったようです。しかし、それらの地方でも大型店の進出が顕著で、従来の流通が崩壊しつつあり、京都からの出荷(転送)は大きく減少しているようです。
  2. について言えば、京都に限ったことではないのですが、1の問題と合わさることで、非常な重荷になっていると言えます。ボーナスが出せないとか、社長の給料が出ないとかいうのは日常茶飯事です。前年比70%台の売り上げという仲卸さんも珍しくないようです。
  3. は、難しい問題だと思います。仲卸が、従来のような「待ち」の商売をしているようでは、自然消滅しか無いと思います。かといって、積極的に量販店と組んでいくのも、必ずしも得策では無い部分もあるのです。
    たとえば、某仲卸店では、ある量販店に年間数億円納入していたが、粗利益は200万ほどしか無かった。従業員の給料を払えば赤字になる、といった話を聞いています。
    また、D量販店への納入で、kg3000円のちりめんじゃこをkg1800円で入札したとかいう話もあります。これで、ずっと取引をしてくれれば、どこかでマイナスを取り返す可能性もあるのですが、現実には「いつ、切られるかわか
    らない。」状態での取引だそうです。
    このように、極端に言えば「引くも地獄、進むも地獄」といったような状態に、仲卸さんが置かれているのは事実だろうと、私は思っています。

そういうなかで、どう生き残りを図るのかと言うことで、いろんな事業をしてられるようです。
小売りや通販が割と多いようです。また、京都の**6のように「味噌漬メーカー」として全国進出を目指すところもあります。
あと、アパート経営とか駐車場経営もありますね。

昨年、京都駅に伊勢丹ができました。この中に「かもめ水産」という魚屋さんが入っています。
これは、京都の荷受け会社の1社がバックアップし、仲卸3社が合同で作った会社です。伊勢丹へ、京都市場からの魚を入れるために作られたといってよいものだと私は理解しています。
これを作られたとき、小売商の組合が反発し、抗議集会が開かれるという事態まで行きました。
これについてのコメントは控えますが、伊勢丹で商売のできる小売商が京都にあるのかどうか、ここらが問題であったことは事実でしょう。

中央市場自体が、今後どうなっていくのか、どういう風に自己改革をしていくのか、厳しく問われていると思います。(もちろん、私に答えがあるわけではありません。)
そのなかで、荷受け会社の役割がどうなるのか、仲卸さんの役割はなんなのか、そんな議論が必要なのでしょう。

ただ、議論の前提は、「地域住民の食生活要求にこたえる」ということで無ければいけません。それも、狭義に捉えるのではなく、広義に捉える必要があるでしょう。
地域社会が崩壊すれば、「地域住民の食生活要求にこたえる」という命題も実現不可能になるわけですから、高齢化社会を迎えようとしつつある現状の中で、地域社会をどう守り、暮らしよいものにしていくのかという視点が大事だと思います。

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